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マニュアルが思考の破壊をもたらすとき~コンビニの「年齢確認ボタン」っている?~


皆さんはマニュアルを使っているだろうか。

世の中にはマニュアルが溢れている。
明確なマニュアルではなくても,おおむね「仕事はこのようにやるものだ」というルールは身近にあるものだ。
そういう「黙示のマニュアル」を含めた場合,マニュアルが周りにないという人は殆どいないだろう。

私もマニュアルを使って仕事をしている。
マニュアルは活用の仕方にとってはよりよい仕事をするための武器になる。
しかし,マニュアルは気をつけていないと恐ろしいほどに思考の破壊をもたらすのではないか。

以下,2つほど例を出して論じたい。
皆さんはどう考えるだろうか。

なお,以下のコンビニはとりあえずファミリーマートを想定しているが,このnoteは特定のコンビニを批判することを目的としていない。また,例としてコンビニを挙げたが,今回挙げたようなマニュアルによる「思考停止」は様々な業界にあると思われることを付け加えておきたい。

◇◇◇

1 お酒を買うときのコンビニの「年齢確認ボタン」っている?

現在,コンビニにおいては,お酒を買うときにお客に「年齢確認ボタン」を押させるしくみとしている。どんなお客にもだ。60歳であろうが70歳であろうが押させている。

「年齢確認ボタンお願いします」と店員が言い,お客が年齢確認ボタンを押す。かかる時間は数秒であるとはいえ,貴重な時間が費やされる。

私は前々からこんなボタンはいらないと思っている。その理由は次のとおりだ。

(1) 実効性がない
年齢確認ボタンの目的は未成年者にお酒を買わせないことだ。だが,お酒を買いたい未成年者は間違いなく年齢確認ボタンを押すだろう。だから,このボタンには意味がない。
(2) 多くの成人に手間を与えている
コンビニでお酒を買うのは多くの場合成人だ。この人たちにとって年齢確認ボタンを押すことは無駄でしかない。

にもかかわらず,コンビニは年齢確認ボタンを押させている。
その背景は,コンビニ側の「保身」だろう。お客さんが「成人」だと申告したのだからコンビニが売っても仕方がないと言いたいのだ。

だが,仮にそういう目的があるのなら,お酒の陳列コーナーにこの言葉を貼り付けておけばいい。

 当店は未成年者にはお酒を売りません。お酒をレジに持っていらした場合には,そのことをもって,お客様が当店に成人であると申告したものとみなします。

これなら,レジにお酒を置くという動作に「年齢確認ボタン」を押すという意味を兼ねさせることができる。レジ付近は防犯カメラで撮られているのだから,あとで検証することも簡単だ。

◇◇◇

2 「T-ポイントカードありますか?」ってもうやめたらいい。

少なくとも私がよく利用するファミリーマートでは,商品をひとおとりスキャンして代金合計がレジに表示された後に店員が「T-ポイントカードありますか?」と言っている。

そのたびに私は「結構です」と言っているのだが,毎回同じコンビニを利用し,もう何十回以上もT-ポイントカードを利用しないという意向を表明しているにもかかわらず,店員は必ず「T-ポイントカードありますか?」と聞いてくるのだ。

もしかしたら,私の利用しているコンビニの店員はAIなのかもしれない。
なかなかよく出来ていて,商品を詰める手際もいい。

しかし,「考える」ということはしない。マニュアルに何の疑問も持っていない。もしかしたら,「疑問を持たさない」ように本社がAIの設定をしているのかもしれない。

私がレジの他のお客をみていると,「T-ポイントカード」を出している人は少ない。
ならば,利用したい人が事前に出せばいいだけだ。
わざわざ店員から「ありますか?」と聞きお客が「答える」というプロセスを入れる必要はない。

この手順は数秒だからいいではないかと思われるかもしれない。
だが,朝の忙しい時間帯。多くのお客さんがレジに並ぶ状況でこの手順を入れるか入れないかでは相当な違いが生まれる。

コンビニ側は親切心で言っているのかもしれない。
だが気づいていないのだ。その親切心が,多くのT-ポイントカードに無関係なお客の時間を奪っているということに。
T-ポイントいらないから時間をくれ!

解決策としては,レジの前にこの言葉を貼り付ければいい。

T-ポイントカードを利用したい人は,現金や電子マネーを出す前にカードを出してください。会計後のT-ポイントカード利用は一切認めませんのでご了承ください。

◇◇◇

2つのマニュアルには,いずれもコンビニの「こうしておけば安全だ。お客からも第三者からも責められない」という発想が透けてみえる。代弁するならこういうことだ。

気をつけないと「未成年にお酒を売ったでしょ」と社会が責める。
気をつけないと「T-ポイントカード使えるなら事前に言ってくれよ。不親切だな」と責めるお客がいる。
だから,コンビニを守るためにマニュアルを作ったんだ!

ここで,コンビニを一応擁護しておくと,コンビニがそう思うのも無理はない。

なぜなら,今の社会が予期しないことで炎上する社会だからだ。些細なことで「コンビニはこうしていればよかった」と責められる社会だからだ。

そんな社会でいる限り,自分を守るための「マニュアル」は次々と量産されていき,マニュアルがもたらす思考停止は「仕方がない」ものとされ,本来必要となるお客さんが実際に求めるサービスからずれたものが提供され,店員は本当は必要のないはずの手順に疲弊するだろう。

細かいことで声高に人や企業を叩き,炎上を楽しむ人へ言っておく。

炎上の先にどんな社会が作られるのか。炎上の先にあるのはあなたが生きやすい社会なのか。何かを批判するときは,一度は考えてみてもいいのではないか。


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