空気が読めなくて困る!~自閉症スペクトラムを救うのはあなたの愛かもしれない~
空気を読めなくて困っていませんか。あるいは周りに空気を読めなかったり,臨機応変な対人関係が苦手な人はいませんか。もしかしたら,その人は「自閉症スペクトラム」と呼ばれる特徴を備えているのかもしれません。
おととい,自閉症スペクトラム障害の解明が進んでいるというニュースが出ていました。そこで,今回は,このテーマについてまとめます。
1 自閉症スペクトラムって何?
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは,自閉症やアスペルガー症候群などが統合されてできた診断名で,
・対人関係などの「社会性」
・言葉の発達などの「コミュニケーション能力」
・物事に対する「想像力」
の3つに特化して何らかの障害をもつ発達障害の一つとされています。
その心理的・行動的な特性は,
「臨機応変な対人関係が苦手で,自分の関心,やり方,ペースの維持を最優先させたいという本能的志向が強いこと」
とされています(精神科医・本田秀夫「自閉症スペクトラム」,以下,医学的な部分については同書をもとに記載します。)。
2 え!そんな人たくさんいるんじゃないの?
ちょっと待てよ。
そんな特性を持つ人,やまほどいそうですよね。 私にもこれにあてはまる部分はありますよ。
「スペクトラム」(Spectrum)というのは英語で「連続体」を意味します。
だから,一口に「自閉症スペクトラム」といってもその程度は様々です。
本田氏は,自閉症スペクトラムのなかには障害にあたる人(自閉症スペクトラム障害・ASD)と障害にあたらない人(非障害自閉症スペクトラム)がいると指摘します。ある特徴があったとしても,その特徴ゆえに日常生活・社会生活を送るなかで問題が生じている場合に「障害」と呼ばれるようになります。
また,非障害自閉症スペクトラムにあたる人(つまり,自閉症スペクトラムの要素を持つ人)とそれを持たない人との境界線も曖昧だと言います。
つまり,
1 自閉症スペクトラムの特徴を全く持たない
2 自閉症スペクトラムの特徴を持つが生活で困らない(非障害自閉症スペクトラム)
3 自閉症スペクトラムの特徴を持ち,それにより生活に困っている(狭義のASD)
の境界はかなり曖昧のようですね。
自分はどうなの?
そのように思われる方。簡易なチェックではありますが,こちら(全50問の検査)をやってみるといいかもしれません。
ちなみに,私もやってみました。結果としてはASDの可能性低いというもの。
3 恐ろしい二次的不適応
自閉症スペクトラムの特徴を有していて,それにより学校でいじめにあうなどして二次的不適応(うつ,ひきこもり,不安障害)に陥る場合があります。
前述の本田氏は,発生しやすい二次的な問題として,
・いじめ被害
・登校しぶり,不登校
・ひきこもり
・身体症状(頭痛,吐き気など)
・チック(突発的に身体の一部を動かしたり,音声を発したりする)
・うつ
・適応障害
・不安
・強迫性障害
・心的外傷後ストレス障害(PTSD)
・被害関係念慮
を挙げています。
これらの二次的不適応は,「非障害」自閉症スペクトラムにあたる人に対する周囲の反応が原因となって生じるものが少なくないといえるでしょう。
4 自閉症スペクトラム(ASD)の解明進むか!
今回,ASD発症の仕組みを脳科学的に解明する研究が進んできたというニュースが出ました(2018年3月23日読売オンライン 『発達障害「自閉スペクトラム症」解明進む・・・セロトニン減少 発症に関与か』)
この記事の要旨は,次の通りです。
(1) 人為的に操作をしASDに似た特徴的行動を示したマウスは「セロトニン」というホルモンの量が減っていて,このマウスの乳児期にセロトニンを投与すると,ASDに似た特徴が改善した。
(2) ASDの人の遺伝子分析などから,脳内で神経細胞のつなぎ目「シナプス」がうまく形成されなくなり,脳神経の情報伝達に支障が出るのではないかと考えられた。
(3) ASDの人はそうでない人に比べ「内側前頭前野」と呼ばれる部位の活動が弱いことがわかった。
(4) ASDの成人男性40人に「オキシトシン」というホルモンを点鼻で投与したところ,「内側前頭前野」の活動が活発化し,言葉よりも表情や口調から相手の心のうちを読み取る行動が増えた。
以上から,ASDは脳機能の問題で生じること,セロトニンやオキシトシンが改善につながる可能性があることがわかります。
5 自閉症スペクトラムに対する想像力と愛
車いすに乗っているなどの外からわかりやすい障害を持った人に対しては優しくできるのに,こと「空気を読めない」とかコミュニケーションがとれないという人に対して,人は厳しくなりがちです。
なぜなら,それが脳機能の障害であることを想像しにくいから。
だから,コミュニケーションが苦手な人に対して,「努力が足りないだけだ」といった言葉が投げかけられることさえあるのです。
しかし,実際には,本人の努力とは無関係な脳機能の問題が背景にあるかもしれません。
自閉症スペクトラムは前述のとおり実際の生活状況によっては二次的な不適応を引き起こします。
一見して「この人ちょっと変だなぁ」とか「空気読めないなぁ」と思ったとしても,それゆえにその人を邪険に扱ったりすれば,二次的障害の発生に知らず知らずに荷担してしまう可能性があるでしょう。
もちろん,人付き合いをどうするかは自由ですから,「合わないなぁ」と思った人と仲良くする必要はありませんが,少なくとも,「この人ちょっと変だなぁ」とか「空気読めないなぁ」人に対して,例えばそれを露骨に非難したり,あからさまに無視するといった対応をとることはよくないでしょう。
反対に,注目したいのは,ASDの改善につながるセロトニンとオキシトシンです。
セロトニンは幸せホルモン,オキシトシンは愛情ホルモン。
ASDの人に対して幸せを与えたり,愛情を持って接すれば,それで改善につながる可能性があります。
このコラムをお読みの方には「周りにASDっぽい人がいる」と思う人もいるかもしれません。場合によっては,身近な友人や家族,恋人がそうかもしれません。
その場合,あなたの振る舞いによって,その人の二次的障害(うつなど)を予防し,ASDの改善が期待できるのではないか,というのが今回のニュースから窺われるのです。
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