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弁護士が書く,デヴィ夫人の主張に対する反論書


 本日はこちらに続いて2記事投稿します。
 理由は,ちょっと義憤にかられているから。
 いつものnoteではあんまり時事問題にはつっこまないのですが,山口達也氏の件に対するデヴィ夫人の次の「意見」を目にして,「こりゃ書かねば」と思いnoteを書いています。

 引用するのも嫌なんですけど,ちょっとこちらから引用しておきますね。

皆さま ごきげんよう
たかが キス位で無期限謹慎なんて
厳しすぎ、 騒ぎすぎでしょう!
山口達也氏の TOKIO の仲間の方達は、
“許されない行為”と 言っているけれど、
本当にそうでしょうか。 
泥酔男性の Kiss位で? この女の子達は
山口達也氏の所だから 行ったんでしょう。 
17歳位の女の子達は 夜 酔った男性の
所へは 行かない方がよいでしょうね。 
Kiss されたら、トイレに行って うがいして
「ちょっと失礼」と言って 2人で帰ってくれば
良かったわけじゃないですか。 
母親に電話して 警察まで呼ぶなんて。
そして 事をここまで 大きく広げるなんて、
関係者、スポンサー方に与えた損害は
億単位、 計り知れません。
みんな 何を考えているのでしょうね。 
山口氏は 確かにアルコール依存症。 
これは しっかり直さなければいけませんね。
しかし これでは 山口氏が気の毒すぎます。

 社会に影響を与える者の意見として,デヴィ夫人の意見にはあまりにも不適切な表現が散見されますし,性犯罪に対する無理解に満ちています。
 有名人(デヴィ夫人)のこの言説がそのまま流され続けることには大変大きな問題があると考えていますので,デヴィ夫人の主張に対する反論をまとめました。

 以下,デヴィ夫人の主張に対する反論です。

◇◇◇

1 前提事実の把握の稚拙さ

 デヴィ夫人は山口達也氏の事件(以下「本件」という)について「たかがキス位で」と意見している。

 しかし,一連の報道では,山口氏の行為については「無理やりキスするなどした」としてキス以外の行為の可能性が示唆されている。よって,事実関係を確認することなく「たかがキス位」と断定している点がまず問題である。

 報道によれば,被害者はトイレに逃げ込んだとされ,すぐに母親に携帯電話で連絡したとされている。この事実は,被害者がただちに密閉空間に避難して,トイレから出られないほどの恐怖を覚えたことを示唆している。この報道が事実なら,被害者にとって相当恐怖心を覚えるような山口氏の行動があったと推察される。

 なお,そもそも「キス」のみであったとしても「無理やり」することが許されないことは言うまでもない。この点は後述する。

 また,本件の送致罪名は強制わいせつ罪である。
 強制わいせつ罪は「暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした」ときに成立するものであって,この罪状における「暴行または脅迫」は被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度のものであることを要するとされている。
 この送致罪名からしても,本件を「たかがキス位」の事案とみることはそもそも誤りである。

 さらに,デヴィ夫人は,「あの女の子達は山口達也氏の所だから 行ったんでしょう。」と意見しているが,何の根拠もない。
 被害者と山口氏は,報道によれば仕事で知り合ったというのであるから,山口氏と被害者との関係は会社における上司部下の関係に類する権力関係にあった可能性が捨てきれない。

 以上,デヴィ夫人の発言には前提事実について安易な憶測に基づくものが多い。もちろん,憶測による表現が一切許されないということではないが,性犯罪により傷ついた被害者を責めていると受け取られる発言を憶測により行うことは,社会的著名人として厳に慎むべきである。

2 性犯罪にあった被害者の行動に対する無理解

 デヴィ夫人は,「Kissされたら,トイレに行ってうがいして「ちょっと失礼」と言って2人で帰ってくれば良かったわけじゃないですか。」などと述べる。

 デヴィ夫人の意見は,性犯罪にあったときに被害者が冷静な行動をとれることを前提にしている。しかし,事実は異なる。

 法務省ウェブサイトにも掲載されている「性犯罪の罰則の在り方に関する論点(案)への意見」にみられるように,突如の性犯罪に対して被害者は大きく動揺する。

 より具体的に言えば,次のとおりである(前述の「意見」より抜粋)。

「突然襲われた被害者は,予測もしない出来事に驚愕してショックで頭も真っ白になってしまう。何が起こったかわからず,喉もはりついて声も出せず,体もこわばって動かないことも少なくない。」

 このような「フリーズ現象」をも起こす性犯罪に遭遇した被害者に,冷静に「トイレに行ってうがいして「ちょっと失礼」と言って2人で帰ってくれば良かった」などと「提案」するデヴィ夫人の感覚は社会通念を著しく逸脱していると言わざるを得ない。

 むしろ,山口氏の行為に直面したにもかかわらず,トイレに駆け込み,携帯電話で助けを求めるという合理的な避難行為に及ぶことができたという被害者の行為を積極的に評価してしかるべきである。

3 性犯罪に対する無理解

 そもそも,デヴィ夫人において,性犯罪が重大犯罪であることを理解しているか疑問がある。

 言うまでもないが性犯罪は重大犯罪である。
 本件で問題となった強制わいせつ罪は性的自由を保護するものと言われているところ,性的自由は個人の尊厳の根幹をなすものであり,最大限尊重されるべきものである。
 また,意に反して性的な攻撃を受けた場合に,恐怖や恥辱感,フラッシュバックや不眠,解離など様々な後遺症に苦しむことになる。
 重要な自由を侵害し,さらに重大な結果をもたらす犯罪類型であるからこそ,相当に重い罰則が課せられている。

 強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役である。
 比較対象として未成年者を誘拐した場合の法定刑をみてみよう。
 未成年者の誘拐は社会的にも重大な犯罪である。
 デヴィ夫人も,小さな子どもが誘拐された事案について「たかが誘拐」とは言わないであろう。

 では,その誘拐罪の法定刑はどうかと言えば,3月以上7年以下の懲役なのである(刑法224条)。
 つまり,未成年者の誘拐よりも強制わいせつ罪ははるかに深刻で予防すべき犯罪だと考えられているのである。

 本件の事実関係は詳細に明らかになっていない。
 わかっているのは罪名が「強制わいせつ罪」であり,その法定刑が未成年者誘拐罪よりも重い重大犯罪であるということだ。

 それにもかかわらず,デヴィ夫人は,あろうことか「たかがキス位」「母親に電話して 警察まで呼ぶなんて」などと述べているのである。

 言うまでもなく,仮にそれが「キス」のみであったとしても「強制わいせつ罪」に該当する態様でなされたのであれば重大犯罪であることに変わりはない。自由を侵害され「無理やり」キスされることの恐怖心は相当のものである。適切な例えではないかもしれないが,世間では,キスだけは好きな人とじゃないとしたくないという女性も相当数いる。「たかがキス」と受け止められるデヴィ夫人のような人物もいるかもしれないが,そのような感覚を他者にあてはめて,あたかも自分が正しいかのように意見するのは間違っているだろう。

 また,キスは他の性的行為へとつながるものであってキスと他の性行為との境界線は曖昧である。無理やりキスされた被害者が他の行為もされる恐怖を覚えたことは想像に硬くない。この点でも「キス位」という感覚はどこかずれていると言わざるを得ない。

 未成年者を誘拐されたら警察に電話するのは当然である。
 より重い犯罪である「強制わいせつ罪」について警察を呼ぶことをどうして「警察まで呼ぶなんて」と非難することが許されるのだろうか。
 デヴィ夫人のバランス感覚には相当の問題があると言わざるを得ない。

 また,「無期限謹慎なんて厳しすぎ,騒ぎすぎ」などとデヴィ夫人が述べる点についても重大な問題がある。
 そもそも本件は最大で10年の懲役になる強制わいせつ罪事件なのであるから,それが事実であるとすれば,会社員なら解雇されてもやむを得ないものである。山口氏が相応の社会的制裁を受けるのは当然であろう。

 比較対象にするのもおかしいが,もとフジテレビアナウンサーの菊間弁護士は未成年のタレントとの飲酒により相当期間にわたり謹慎をしている。この騒動はただ飲酒のみが問題となっているが,菊間氏は相当バッシングされた。飲酒のみですらこのような騒動であるところ,本件は強制わいせつという深刻な犯罪が問題となっている。「騒ぎすぎ」というデヴィ夫人の感覚はどこから出てくるのであろうか。

4 本件が未成年者を対象とした事案であること

 未成年者は心身の発達が未成熟であり,性についても特別な保護が必要である。
 その観点から,自治体において各種の条例(青少年保護育成条例)が制定されている。

 成長過程にある未成年者は合理的な判断が必ずしもできないことがあり,だからこそ各種法令によって特別な保護を受けているのである。

 デヴィ夫人は未成年者が山口氏の居宅に赴いたことを非難している。しかしながら,もっとも責められるべきは,合理的な判断が必ずしもできない未成年者を家に呼びつけ,(しかも酒をすすめたかもしれず),強制わいせつ行為に及んだ山口氏であり,被害者を責めるべきではないことは言うまでもない。

5 二次被害の防止が何より重要である

 前述のとおり,強制わいせつ罪は深刻な犯罪類型であり,被害者のみならずその家族,友人に至るまで深く傷ついていることは当然想定される。さらに,何らかの後遺症(例えばPTSD等)が残っていてもおかしくない。

 そのような状況で,被害者がデヴィ夫人の意見やこれに賛同する者の意見を直接目にしたらどう感じるであろうか。
 自責の念を感じるとともに,自らの受けた被害が軽く扱われていることに深い悲しみを覚えるであろう。これこそ二次被害である。
 我々は,被害者をさらなる被害者にすべきではない。

 事件が2月に起こったとして,それほど間が経っていないこの段階において,被害者を責めるような「意見」を著名芸能人が垂れ流すことに何の意味があるというのだろうか。

 デヴィ夫人に対しては,自らの意見を撤回し,被害者に謝罪するブログを書くことを強く求めるものである。

◇◇◇

 以上です。拡散や,スキ,フォローによる応援をいただければ嬉しいです。デヴィ夫人から上記意見に対して反論があれば,さらに再反論をする用意があります。

#コラム #デヴィ夫人 #MeToo  

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