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大切なひとのこと②

会えなくなって3か月がたちますね。
日本にいたころは1週間以上会わないことのほうが珍しかったのにね。
最近は1週間以上、電話ができないことも増えていますね。
私から連絡することもほとんどなくなりました。
愛情を表現する機会も減りましたね。

そんな私のことをあなたはどう思っているのでしょうか。

うまく思いを伝えることができなくてごめんなさい。
でも会えなくなってから、連絡の頻度が減ってからますますあなたへの愛情が強くなっています。すごく会いたい。こんな文章を書きながら、泣けてくるくらいあなたのことを愛しています。

はじめて会ったのは2016年の秋でしたね。
はじめて会った日、時間が過ぎるのが惜しいと感じるほど楽しい時間を過ごしました。極度の人見知りの私が、初対面のだれかとあんなにも長くの時間を過ごし、一瞬たりとも苦痛に感じることがなかったのはいま思い返しても不思議な体験でした。
あれから約2年半が経ちました。

あなたは社会人2年目に、私はアフリカで暮らすようになりました。

あなたが告白してくれた日、私は夢を語りました。国際協力を仕事にしたいという夢でした。
国際協力の道を志していることを伝えるにはすごく勇気が必要でした。
“おんな“の私が海外での仕事、それも途上国をフィールドとした仕事に就きたいと伝えると、冷ややかな反応をする男性がいることを私は経験から知っていたからです。だからこれからも一緒に時間を過ごしたいと思っていた相手であるあなたに将来の話をするのが怖かったのです。話をする前、私は心の中で大きな深呼吸をして、これであなたの恋人候補者から脱落することを覚悟しました。そして勇気をだして将来の夢を語りました。

でもあなたは目を輝かせて私の夢を応援してくれましたね。
そしてそのあと、あなたは私を恋人にしてくれました。すごくすごくうれしかった。

付き合い始めてから、あなたと過ごす時間はすごく楽しくて、あなたは私の一番の理解者であり、心の支えになりました。
不規則な仕事をしていた私のスケジュールに合わせて時間を作ってくれましたね。
仕事の愚痴をたくさん聞いてくれましたね。
患者さんからの暴言、先輩からの叱責、睡眠時間数時間の連日激務、患者さんの急変やお別れ、思い返せば切りがないほど大変なことがたくさんあったけれど、あなたがいたから頑張れた。何万回と言い回しされたような表現だけれど本当にそう思います。どんなに忙しくても、精神的につらくても、あなたに会えばすべての苦痛から解放されるように感じました。

国際協力は中学生のときからずっと心に抱いてきた夢でした。
結婚も出産もすべてあきらめてでもかなえたい夢であり、目標でした。
でも年齢を重ねるうちに、夢をあきらめてもいいと思えるほど大切に思えるひとと出会えたなら、お嫁さんになるのも悪くないな、お母さんになるのも悪くないな、と思うようになりました。
そしていつからかそれくらい大切に思えるひとと出会うことがもう一つの私の夢になりました。
今考えれば二つの夢が矛盾していますね。でもどちらも心から望んだことでした。

そして気づけばあなたは私が国際協力の夢をあきらめてもいいかな、と思えるほど大切なひとになっていました。
あなたのそばにいたいという理由で国内で転職する道を模索しはじめました。恥ずかしくて伝えられなかったけれど、本当の理由はあなたのそば離れたくなかったからなんです。他にも考えはあったけれど、あなたと出会っていなければ国内で転職する選択はなかったかもしれません。
でも試験には受かりませんでした。
試験に落ちたことをきっかけに、改めて自分の将来と向き合いました。
あなたは確かに私にとって夢をあきらめてもいいと思えるほど大切なひとでした。
でもあなたを理由に夢をあきらめてしまったら、ずっと他人任せの人生を歩むことになってしまう。
人生がうまくいかなくなったとき、私は心のどこかであなたに責任を転嫁してしまう気がしました。
そんな風になるのはいやだと思いました。
逆にもしあなたが夢を追って私を置いて日本を離れる選択をしたとしたら、私はあなたの夢を応援したいと思いました。大切なひとの夢を応援するためには、私自身が自立して夢を追いかける必要があると思いました。
なんとも理屈っぽい発想で自分でもあきれるほどですが、これが私なりの結論でした。

あまり深く相談せずにごめんなさい。
不器用なあまり、上手に相談することができませんでした。

青年海外協力隊への応募を考えていると伝えたとき、あなたは少し困惑していましたね。
でも私の選択を応援し、そっと背中を押してくれました。

合格発表の瞬間、私はあなたのとなりでひとりそわそわしていました。
そしてこっそりwebサイトを確認しました。
結果は合格でした。
うれしさのあまり、私はとなりで寝ていたあなたをたたき起こし、寝ぼけ眼のあなたに合格したことを伝えました。
あなたの驚きと寂しさに困惑してなんとも言えない表情をしていたのとをいまでも覚えています。
でもあなたはおめでとう、と言ってくれました。

それからお別れまでの日をふたりで大切に過ごしましたね。
寂しいけれど頑張ってね、応援してるよ。いつもそういってくれましたね。
寂しいと言ってくれてありがとう。
応援してくれてありがとう。
そのたび感謝と寂しさとうれしさといと悲しみと愛おしさでこころがぎゅーっと縮むのを感じました。

一緒にたくさん映画を観ましたね。
一緒にたくさんおいしいものを食べましたね。
一緒にたくさん美術館に行きましたね。
一緒にたくさん楽しい時間を過ごしましたね。

2年もの間、あなたのそばにいられないのに恋人のままでいていいのか、何度も何度も悩みました。
時々不安になって、あなたに問いかけましたね。
いまお互いへの愛情が変わらないのに、まだどうなるかわからない先のことを考えて二人の関係を終わらせる必要はない。
そう言って私を慰めてくれました。
あなたの想いを聞くたび、あなたの恋人でいられる幸せをぐっと噛みしめました。
そしていつも、2年後無事に帰ってきてくれればそれでいい、待ってるよ、どんな話が聞けるのか楽しみだな、と言ってくれるのでした。
そのたび、あなたと出会えて、あなたを好きになってよかったと心の底から思いました。

あっという間にときは過ぎ、私が日本を去るときがきました。
あなたがいつもそばにいてくれたので、離れ離れになる実感があまり湧きませんでした。
お別れは寂しかったけれど、本当に会えなくなってからの寂しさは想像ができませんでした。

空港でお別れするとき、もっともっと想いを伝えておけばよかった。
愛おしい想い、感謝の想い、たくさんあったのにあわただしく時が流れていってしまいました。仕事のあと、空港まで来てくれてありがとう。すごくすごくうれしかった…

そして長い長い2年間がはじまりました。
はじめのころは仕事で疲れているのに、忙しいのに、週に数回電話で話す時間をつくってくれましたね。相当負担だったでしょう。ありがとう。

私がはじめて任地で過ごした日。
あなたは夜中にも関わらず電話をかけてきてくれました。
電話口で私は泣きました。あなたの前で泣いたのははじめてでした。でもあなたの声を聴いたら、張り詰めていた緊張の糸が一気に切れて、押し殺していた不安があふれて涙が止まりませんでした。言葉を発せないほど泣いていました。
日本人ひとりでアフリカで暮らしているだけで偉いんだよ。すごいことなんだよ。だからなにもできなくても、うまくいかなくてもいいんだよ。頑張ってるよ、偉いよ。
あなたはそんな言葉をかけてくれました。あなたのやさしさに私はまた泣きました。
あなたのことばは、だれからの言葉よりも私の不安な気持ちを慰めてくれました。
あなたは、そんなこと言ったっけ?とすっかり忘れているかもしれませんね。
でも私は何度もあなたのことばに救われてきたのです。

でもそのうちに仕事はますます忙しくなり、だんだん連絡の頻度が減っていきましたね。
そんなとき本当は支えにならなきゃいけないのに、私は寂しさをぶつけてしまいました。
一方的に気持ちをぶつける私にあなたは冷静に向き合ってくれました。

たくさんごめんと言わせてしまって、ごめんなさい。
仕事が大変なときに支えになるどころか、負担になってごめんなさい。

いままでは小さな歪を感じても、あなたと会えば、そして時間が少し経てば、自然に元に戻すことができていました。でもあなたと会えない今、歪がどんどん大きくなって修正不能になってしまうんじゃないかと思うと怖くてたまらなかった。だから我慢せず、想いを伝えることにしました。

仕事も忙しく、体調も悪かったのに、見捨てずに向き合ってくれてありがとう。

日本を離れて3か月が経っても、まだあなたに会えない寂しさには慣れることができずにいます。
いつも寂しくて、会いたくて、恋しくてたまりません。
でもどうもがいても、嘆いてもあなたに会うことはできない。そしてこれも自分で自分に課した試練です。だから慣れようと努力しています。

アフリカで3か月の時を過ごし、アフリカでの生活にはだいぶ慣れてきました。
はじめのころは、アフリカにいることが非現実的でふわふわ宙に浮いているような感覚でした。
でも最近はあなたと過ごした幸せな日々が遠く遠くに感じられ、すべて幻だったのではないかと時々思ってしまいます。
日本に帰ればあなたが待っていてくれるのに、それさえもなんだか現実味が薄らいでしまっているのです。

だから時々写真を見返して、あなたとの日々を思い返しています。
あなたの撮った写真のなかの私は自分でも驚くほど幸せそうに笑っていてあなたと過ごした幸せな日々を思い出します。
それなのに時々寂しさのあまり、いっそのことお別れしたほうがいいのでないか、とそんな逃げの考えが脳裏に浮かびます。
でもあなたとの悪い思い出も、あなたの嫌いなところも、なにひとつ思い浮かべることができないのです。私はあなたへの恋しさから逃げることもできないのです。

あなたが体調を崩したと聞いたとき、そのとき一番そばにいられないことを悔やみました。そのとき一番日本に帰りたいと思いました。
アフリカで苦しい生活をしているひとに寄り添いたい、そう思って日本を離れました。でもその結果、一番大切なひとが苦しいとき寄り添うことができなくなりました。
あなたにかける言葉を必死に探しましたが、みつかりませんでした。
大丈夫?も、お大事に。もどこか他人行儀でイヤでした。
そしてあなたのことをどれだけ深く愛しているか気づきました。

この間、あなたの夢を見ました。
満面の笑みで監督した作品を私に見せてくれる夢でした。
私は寝ぼけながら、ああこれが現実だったらいいな、と思いました。

その翌日、あなたから連絡がきました。
コンテストに出すための映像を撮影しているという内容でした。

その知らせを聞いたとき、すごくすごくうれしかった。
そして完成した作品を見て、もっともっとうれしい気持ちになりました。

私は芸術に疎いので、作品自体に上手にコメントすることはできません。
でもあなたが作った作品を久しぶり見ることができたことがとれもうれしかったのです。

そばにはいられないけれど、上手に想いを言葉にできないけれど、離れていても私はあなたの夢を一番に応援しています。そうありたいと思っています。

あなたが仕事をやめようと、日本を離れようと、あなたが望むことならどんな決断も応援します。

これが私の素直なあなたへの想いです。
自嘲するほど重たいので、きっとしばらくあなたに伝えることはできないでしょう。
あなたとお別れするときか、あなたと一生添い遂げることを誓うときに伝えますね。
恋人同士にはいずれどちらか片方のときが訪れるはずなので、遅かれ早かれいつかは伝えられますね。そのためにアフリカで生きていきます。
元気に健康に時間を過ごして、いつかあなたに想いを伝えられるように。

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