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【養成所】 どうも、ありがとうございました。

 くそう、養成所が終わってしまった。まさか、こんなにあっという間に終わってしまうとは思っていなかった。

 もっともっと、自分のできることを頑張ればよかったと思う面もあるけど、現実的にできることをやっていたらこのような結果になった、という事実もある。どれだけ最悪な未来であったとしても、これが最善の未来だったことには違いない、と思いたい。



はじめに

 自分は華も無いしキャラクターも無いから、入学当初は環境に馴染めなくて本当に苦労した。自分の面白いと思うものをぶつけても、全くウケない。今までの人生で、どうやって笑いをとってきたのか忘れる。アウェイの雰囲気を常に感じながら授業に出ていて、それでも「自分は面白い」と信じて頑張っていた。

 いつ頃からか、自分が養成所の中でも下から数えたほうが圧倒的に早いという事実に気づいた。鼻っ柱を折られたショックで辞めてしまおうかと思うこともあったけど、今できることを最大限やることが私らしいと思って、そこからは負け犬根性だけで、もがき続けた。

 本当は、ボソッとセンスのあることを言って、それが波のように広がるお笑いが理想だけど、出たくないのに前に出て、大声を出したりした。ウケたりスベったりしたけど、清々しい気持ちではあった。それでも自分の中の芯の部分は不安で、ずっと心がドキドキしていた。

 ライブの香盤が発表される度に心が抉られる。努力した時ほど心に来る。もっと努力した人たちが評価されている、そんなの当たり前すぎる。お笑いを心から愛している人たちって、こんなにたくさん居たんだ。なんで今までの人生で出会えてこなかったんだ。どうして私の周りには面白い人がいなかったんだ。

 コント。スベった帰りに、小道具をたくさん持って中央線に揺られるのはとてもつらい。小道具が多ければ多いほど、つらい。かと言って、剥き出しのままの自分で戦わなければいけない漫才は、もっとつらい。漫才って想像を遥かに越えるくらい相方と近い状態で喋る。人間がこんなに近くで横並びになって喋ることは、日常の中では存在しないだろう。

 地元の友人たちが、華金〜、とか、ボーナス入った〜、とかキラキラしたストーリーを上げていると、死にたくなる。死にたくなる意味が分からない。自分で選んだ道なのに、お金や社会的地位が無くて苦しんでいる「意味」が、分からない。

 それでも、自分の部屋に閉じこもって、ずっと“消費者”として、死んでいるのか生きているのか分からない日々を送っていた頃よりかは、圧倒的に養成所の毎日は光り輝いていた。何も創らずに自尊心だけを膨らまし続け、活躍する同世代の姿を見て吐き気を催していたあの頃よりかは、刺激的で面白い時間を過ごせていた。

 養成所に行かなければ幸せになる、お笑いを辞めれば嫌にドキドキすることもないと思ったけど、学費の元を取るまでは辞められない。来なくなった同期たちが、裏でどれだけ笑いに“消費”されてきたか見てきている、ああなりたくない、と思っていた。

 ずっと、くすぶり続けていると、所属できなかったらどうする?なんて会話が周りから聞こえてくる。所属が全てではないことは分かっているけど、自分が所属できるわけがないとも思っていた。

 自分が所属できるわけないと思っているのに出るライブはつらい、同じような立ち位置のみんなは、どういう心境で臨んでいるんだろう。逆にもう所属ほぼ確定、みたいな扱いをされている人たちはどういう気持ちで頑張っているんだろう、俺なら自惚れて天狗になる。

 上のクラスの人たちに会うと、萎縮してしまう。常に面白いことを言わないといけない、と思ってしまう。それでも話してみると、そんなこと関係なく楽しく話してくれるから、自分が惨めで愚かでよりつらい。

 どれだけ評価されていなくても、自分たちの「面白い」と思うものを信じている人たちはかっこいい。自分もそうなりたいけど、周りの目ばかり気にして己を貫けない。

 


経緯

 スーパービーバーの「どうせ苦しい気持ちになるのならば息切らして走っていたい」とか、クリーピーナッツの「どっちみちいばらのway」とかみたいな歌詞に背中を押されて、自分の面白さを信じてみようと養成所に入りました。

 普通に働いて(そもそも普通に働けるような人間ではありませんが)、お笑いへの憧れを拗らせて老いて死ぬくらいなら、苦しい思いをしながら走り続けたい、と思ってこの世界に飛び込みました。

 人生で最も素晴らしかった決断は、高校の時に演劇部に入ったこと。それまでの引っ込み思案でどうしようもない自分の殻を破って、舞台に立つ楽しさ、人を笑わせる悦びを知ることができました。そして二番目に素晴らしかった決断は、この養成所に入ったこと。

 それまで、周りの同世代が活躍しているのを、指を咥えて眺め続けるのはとても苦しかった。何者にもなれず、何者にもなろうとしない、消費者でしかない自分が嫌で嫌で仕方なかった。再び舞台に立ちたい、人を笑わせたい、その思いに嘘をつきたくないと思って、養成所に入りました。正しい決断でした。

 「一度でも空を飛んだ人間は地上に降りてからも空を見上げながら歩くだろう、なぜならかつてはそこに居り、そしてまた、そこに戻りたいと思うからだ」ダ・ヴィンチも、こう言っております。

 いざやってみるとお笑いは難しいものですね。脳味噌で理想ばかり追い求めても、それを出力できなければ意味がない。何もやっていないよりもひどいものになってしまいます。

 刺激がとても強い世界に飛び込めて、色々な人の様々な価値観をたくさん浴びることができました。それは私がコロナ禍で一人で部屋にいた時に、喉から手が出るほど得たい体験でした。望み通り、そんな素晴らしい時間を過ごせたはずなのに、自分の軸がしっかりしていなかったから、何が面白いのか、分からなくなることがよくありました。

 負け戦だと分かっていても、戦わないといけない時があると思います。いや、戦わざるを得ない状況に自らを追い込んでしまった現実から、目を背けたいだけなのかもしれません。



愛すべき同期たち

 最後の最後に、愛すべき同期たちを紹介させていただきます。


ストレートマニンゲン

 コント。弾(はずむ)と立花くんによって構成されている。「剛」という漢字がよく似合いそうな、力強いコントが特徴。弾には面と向かって、「あ、小林くんと話してると楽しくないかも」と言われたことがある。立花くんにコンビニで「何か奢るよ」と言ったら、ミートボールのパックを二つだけ持ってきた。それでいいのか。


提灯ホース

 漫才師。暴れまわるあんざいさんと、振りまわされながらも何とか乗りこなす木村のバランスがクセになる。ずっと同じクラスで香盤も近くて、勝手ながら親近感を持っていた。あんざいさんには、美味しい鶏むね肉の調理法を学んだので、今度試してみたい。木村の書くネタを手放しで褒めていたら、しばらくして「最近、小林が褒めてくれない」と拗ねられた。かわいいやつめ。


めおしぼたん

 コント。立石さんに「俺もサザンオールスターズ好きだよ!」と言われて、僕は全然サザンのこと詳しくないです、と言ったら、「ああ、小林くんちゃうかったか…ああ、そうか….」と、とても悲しそうだった。神崎さんに「なんで俺のことをnoteに書かねえんだよぉ」と言われて逃げ出そうとしたら、行く手を阻まれて抱きしめられたことがある。でっかい犬と同じ感触だった。


エクレアパープル

 漫才師。千田に無茶苦茶に絡まれる時間、好きだったなあ。小林ジェーンを名乗っていた時に、「ジョーン」「ジューン」などと絡むだけ絡んで、飽きたらどっかに行ってしまうのも千田らしかった。廣島さんは、ぜひ飲みに行きましょう。ぜひ。


スタンドチープ

 コント。彼らの「盗塁王」というコントがあって、これが本当に馬鹿馬鹿しくて好きだった。ネタ合わせをジロジロ見てると、嬉しいことに二人とも輩のようにオラオラと絡んできてくれる。ネタの中で刃物がよく出てくる、めっちゃおっかない。


深海アフェアー

 コント。小道具で使う大事なパンを食べたがる八木さんも、それについ許可を出してしまう吉村さんも、どちらもファニーで面白い人たちだった。今でも口ずさんでしまうくらい、弁当をぬるくする歌(ビートルズの「All You Need Is Love」の替え歌)が大好きです。音楽に合わせてみんなが歌って、笑って、強い言葉を使えば、あれが“お笑い”のあるべき姿だと思っている。バレへんくらいに♫


クルーズ

 漫才師。俺が稽古場で一人でいる時も、話しかけてきてくれる齋藤くんは優しい人だ。最後の日に、栗田くんが「小林さん、またどこかでお会いしましょう!」と言って、大きく手を振って帰っていったのがカッコよかった。


ジャストサイズ

 コント。解散したコンビだけど、個人的に養成所の中で一番、好きなお笑いをやるコンビだった。白黒の無声映画のような、ボケとかツッコミがない“二人とも阿呆”なコントをやっていた。卒業間近に解散して、二人とも来なくなってしまったけど、どこかでお笑いを続けててほしいなあ。


窓辺のピーマン

 コント。“飄々”という言葉を擬人化したような阿部ちゃんと、古代ローマ人の望月によるコンビ。唯一無二で、妙に湿り気のあるコントが特徴。同じクラスでやってた二人が上に上がったのが、本当に嬉しかった。二人にしかできない、変幻自在で柔軟なコントをいつまでも見てみたいです。



卒業ライブ

 卒業ライブがありました。観に来てくださった皆様、関係者の皆様、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。私は本当に、本当に幸せ者です。

 当日。いつも通り公園でネタ合わせ、野球と競馬とパチンコの話をして、相方がタバコを吸いに行っている間に、寄ってきたハトに話しかける。子どもが親御さんと遊んでいて、切実に、子どもの頃に戻りたいと思った。ぱんどらスコーンの二人が公園に来て、すこしわいわいする。

 会場入り。見慣れた顔に会えるのも、今日で最後らしい。本番までの、楽屋で喋っているあの時間は、楽しくて永遠に感じられた。

 開演。いつも思うけど、ライブのトップバッターの人ってすごいと思う。私たちも前回のライブで一番目だったけど、緊張でふにゃふにゃしたまま舞台に立ってしまった。今回は、感電ガーネットがトップバッターを勤めていた。堂々としていて、かっこいいと思った。

 出番である。一つ前のやさしいワイルドが、どっかんどっかんウケていてありがたかった。明転。照明に照らされて汗が滲むあの感覚を味わっている、生きている気がする。気づいたらネタが終わっていた。袖に帰る。あー、終わったー、口に出ていた。お笑いの養成所が終わるくらいで、感傷的になるような人間にはなりたくなかった。なりたく、なかった。

 同期の皆さん、一年間お疲れ様でした。どうも、ありがとうございました。所属したみんな、おめでとうございます。二年目ある人二年目がんばれ。

 最後に、この【養成所】の文章を一年間読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。どれも拙い文章ばかりですが、読んでるよ、と言われると嬉しい気持ちになりました、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。





小林優希

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