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ギフト

先日、あるところで選手時代の失敗と成功についてお話しさせていただいた。

自分のことを話しているうちに、新たに気づいたことがあった。

落ち込んだ出来事、うまくいかなかった事を失敗と呼ぶと思うが、今回その話をしていて、改めて気づいたことがある。

参加者からの質問で、
世界選手権の選考会である日本選手権で、どうしてライバルの多い試合、不利な状況でもレースに勝つことができたんですか?
と聞かれた。

それは、2日前に得意な種目で大負けして、とっても悔しかったから、そのレースでは最後の接戦になった時に、今度は絶対勝つぞ勝と思った。世界の大会に出たい!って気持ちが、大負けしたからこそめちゃくちゃ強くなった気がする。だから、私より明らかにスピードのある選手の猛追から逃げられた、と答えた。

このレースはというと、ある日本選手権でのことだった。それは世界陸上の選考会となっており、当時、世界陸上の標準記録を破っていたので、あとは優勝すると選ばれる可能性がとっても高かった。10000m、5000mの2種目を走る予定だが、10000mの方が優勝の可能性が高く、優勝は10000mで狙っており、その可能性も充分にあると、自分も周りも思っていた。
ところが、優勝から程遠い6位という結果に、私も周りも沈み込んだのを覚えている。

原因は、おそらくきっと行けるだろう!きっと優勝して選ばれるだろう、調子が良かったのもありそう思っていた。それが、なぜかレース当日は体が動かなく感じて、全く思った通り走れなかった。今でも、なぜあんなに体が動かなかったんだろう?と思う。

とにかく、その2日後に5000mがあり、そこで優勝すれば問題なかった。しかし、こそには1500mの日本記録保持者、5000m3000mの日本記録保持者が出場予定で、絶望的だった。さすがに、もう世界陸上には出られないと落ち込んだ。その2日間どう過ごしたのかというと、翌日はひたすら泣いてた。そして、その翌日がもうレース当日。

監督とはあまり言葉を交わしてないけど、私の推測で言うと、監督ももしかしたら諦めてたんではないかなと思う。レース当日も、おそるおそる今日のレースの指示を伺いに行くと、"好きに走ったらいい"と言われた。
その時、きっと無理だって思われてるのかもしれないと思った。でも、優勝する展開を泣きまくっていた前日にもたくさん考えていて、周りが無理だと思ったとしても、もうやるしかないと気持ちが固まった。

とりあえず、ウォーミングアップの時には気持ち的にもやっと落ち着いて、何とか走って準備をしていた。

レース展開は、最初から先頭で最後まで先頭というレースだった。全国規模の大会で、このパターンで優勝したのは初めてだったように思う。

今振り返ると、普通の精神状態ならやろうと思わないレース展開だった。強豪選手と戦うのに、そんな展開を自ら実行したなとさえ思う。

勝因は、2日前の大負けによって、とてつもなく落ち込んで、たくさん泣いて、そんなに世界選手権に出たかったんだなぁと、気づいた。
泣いていた果てに思ったのは、世界陸上に最初から出られるって決まっていたら、そんなレースはきっと面白くないし、どうなるか分からない、上手くいくかどうか分からないから、人生面白いんだ!とそんな考えが湧いてきた。
ここで諦めると思うとまた、悔しくなってくるし、どうなるか分からないところに賭けようと思った。
だからこそ、最初から先頭で最後まで先頭、加えてペースもそこそこ速いペースで走り、先頭集団の人数を徐々に減らす作戦。最後に、猛追してきても一歩も前に出さずに逃げる。とりあえず、最強のプランを組んだ。
スタート前、失敗したらどうしようとは考えなかった。どうなるか分からないからそこ、人生面白い!違うスイッチが入ったかのように、もうやるだけだと思った。

結果、この通りに走れて奇跡的だった。
正確には、この時外国人選手も走っていて、外国人選手には先行されたが、それもいい目標になった。最後の100m後ろから猛追された時、自分も外国人選手を追いかける気持ちで必死でゴールしたら、逃げ切っていた。

2日前の負けのおかげだと思っていたけど、
改めて、あの大負けが無くて、すんなり得意種目で世界選手権に出場していたら…
世界選手権で入賞することはなかったと思う。
世界選手権では、日本選手権以上にあんな切羽詰まった気持ちになることはないと、なぜか気楽に走れた。日本選手権の負けは、後々にすごく大きな良い影響となって、現れていた。それを、質問に答えている途中に、改めて実感した。

あの負けは、今でも自分にパワーをくれる時がある。あんなに人生最悪だと思う出来事も、後には良い影響になっているのだから、落ち込むことは、きっと後には良い影響になる!
そう思えるきっかけになった、経験だ。

先日の参加者の質問に答えていて、あの負けは本当によかったなと、10年前のことだけど、改めてそう思えたので、書き残したくなった。

当時の失敗と思っていたことも、今の自分にとっては贈り物と思えるくらいだ。必死にたくさん準備してきたからこそ贈り物と思える経験になったのかと思う。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。共感していただいだり、楽しんでいただけましたら、とても嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m