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大事な婿さんだから


 わたしとわたしの夫が喧嘩したとき…母は必ず、わたしの夫の肩を持つ。

 それが、ちょっと悲しくて、「娘のわたしの肩を持って」と、思い切って言ってみた。そうしたら、母は「だって大事な婿さんだから」と言う。いや、それじゃあ、わたしは納得できない。母の言葉をしばし、待つ。「ここに来てくれただけでありがたいから」母は少し考えて、付け足した。

 そうだろう。そうなんだけど…わたしだって、こんな田舎に来てくれたこと、夫には深く深く感謝している。

 だけど、そうじゃない!

 「おかあさん!わたしがここに居るから、来てくれたの!だから、わたしにも感謝してほしい!」

 気がついたら、そう叫んでいた。まずは、わたしがここに居ることを選んだからじゃないか。夫にはあまり頼らず、村のこと、実家のことも、わたしがほぼ全てをやっているじゃないか。そんな思いから出た言葉たち。

 それでも、母は、きょとんとしている。隣にいる父が、たまらずに、笑い出した。わたしも笑えてきた。いや、もう笑うしかない。父が、「ほんと、いつもありがとうな」と、優しく言ってくれた。

 だから、もういいやと思った。それに、母はこういう人なのだ。母は、どうして、わたしがこんなに腹を立てるのか、全くわかっていない…まぁ、わたしも、母の肩を持たないから、当然かもしれないなぁ。わかってないのは、わたしなのかもしれないなぁ。

 わたしは跡取りなんだから、当たり前のことをしているだけって、思っているのかもしれない。母は姑に仕え、そして見送り、自分のことより、家族を優先して、ずっとずっと生きてきたのだから。

 でも、いつもは我慢して、言わない言葉を、今回は言えた。そう気がついたら、ちょっとくすぐったくなった。もう、我慢はしない。こうやって、小出しに、ちゃんと、言葉にしていこう。

 それに、見たところ、母はノーダメージ。そうか、母も嫁いできてから、苦労を重ね、どんどん鍛えられ、わたしが思うより、うんと、打たれ強くなっているのかもしれない。それから、揺るがない自信も身につけているかもしれない。繊細で、守らねばならない母…そう思ってきたけれど、もうちょっと、ぶつかりにいってもよさそうだ。

 なんだか、すっきりした。これからは、もう少し穏やかに話せそう。言いたいこと、身のうちに、もう溜めない。これからは、そうやって付き合っていくんだ。


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