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イスはイスでも


 読み聞かせの日。朝8時過ぎ。

 今日は3年生だ。教室に入ったら、バン!とみんなの視線を感じた。読み聞かせを、とても楽しみにしてくれている子が多いみたい。秋は学校行事も多く、久しぶりの読み聞かせになったこともあるかな。

 ふと、こんな感じなら、できそうだなと思い、なぞなぞから始めることにした。今日のはなしは、7分ほど。読み聞かせは15分間だから、だいぶ余裕がある。なぞなぞは3つにした。問題を出してから、しばしシンキングタイム、それから、「せーの」で答えを言ってもらうことにする。

 「第一問、イスはイスでも、世界の国にあるイスはなぁんだ!」

 「あー、わかる〜!」「なんだろ?」「あっ、あれじゃない?」

 みんなの反応を興味深く見守った。ちょっと長めに時間をおいて、

 「せーの!」

 「アイスランド」
 「スイス」
 「イスラエル」

 いくつかの「イス」が出てきた。

 「みんな、正解!いろいろあったね。では、続けて、第二問です。イスはイスでも、冷たくておいしいイスはなぁんだ!」

 「知ってる!」「あ〜!」「アイスでしょ。」

 「せーの!」

 「アイス!」

 今回は、きれいに声が揃った。

 「あったりぃ〜!」

 「さて、第三問、最後のなぞなぞは、イスはイスでも、給食に出てくる辛いイスはなぁんだ!」

 「また、イスゥ!」「あ!!」「うーん?」

 「せーの!」

 「カレーライス!!」

 これまた、声がひとつに重なった。

 「はい!みんな大正解!というわけで、今日のおはなしは、これ!『ひみつのカレーライス』です。」

 そう言って、本をみんなに見せ、読み聞かせを始める。「はじまりはじまり〜」の言葉の後、拍手をもらう。

 さて、この本は、途中で歌が入る、それをいかに楽しくおもしろく歌うか。また、はなしの核をにぎる、個性的なお父さんのセリフも雰囲気よく読みたい。

 みんな、本に集中している。どんどん読んでいく。風が強く、少し寒い。手がかじかむ。入り口の戸を、入るときに閉めておけばよかったと思っていたら、端の一番前の子が、戸を閉めてくれた。ありがたい。それからは、いろいろを気にせずに、読むことができた。

 途中、途中、子どもたちの表情が変わる様子を見るのが好きだ。なんとなく、それぞれの子が思っているだろうことが、伝わってくる。みんなを見回しながら、読み進める。

 最後の、カレーライスをみんなで食べる場面まできた。真ん中あたり、ひとりだけ、手で顔を覆っている子がいるが、みんな、本に釘付けだ。

 一番終わりのページに、「えっ!」と驚きを残したまま、この本は終わる。まだ、続きがあるような、そんな感じを受けるところがまた面白い。こんなふうだったら、いいなぁと思うおはなし。

 「おーしーまい」と言うと、「カレー食べたくなったよぉ」「今日の給食なんだっけ?」「とんこつラーメン!」「やったぁ!」

 先生が、「カレーライス、朝から食べたくなっちゃいますね」とにこやかに締めくくってくださった。

 そうしたら、後半、顔を覆っていた子が、「おれ、おとといも昨日の夜も、今日の朝もカレーだった」と言う。

 なるほど。それじゃあ、このおはなし、君には辛かったかもね、と心の中で思う。

「ありがとうございました!」

 それから、戸を閉めてくれた子に、「戸を閉めてくれて、ありがとね」と、そっと言って、教室を後にした。



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