労働判例を読む#180

「大阪府・府労委(サンプラザ〔再雇用〕)事件」大阪地裁R1.10.30判決(労判1219.5)
(2020.8.21初掲載)

 この事案は、スーパーチェーン店で、定年後にシニア嘱託社員として再雇用された従業員Eが、再雇用の条件、残業禁止、賞与、について不利益に処遇され、それが不当労働行為に該当するとした労働委員会の判断の合理性が争われた事案です。
 会社Xが、労働委員会Yの判断(救済命令)の取消しを求めたところ、裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.人事考課
 訴訟では、再雇用の条件が不利益なのかどうか、残業禁止に合理性があるのか、組合活動への支配介入に該当するのか、などさまざまな論点について判断されました。特に、Eが組合活動に熱心で、Xと組合が激しく対立していた時期でもあり、会社が恣意的にEを厳しく処遇していたことが認められています。
 その中で特に注目されるのが、人事考課です。
 平均cのところ、dやeがつけられていることが、処遇や賞与の根拠として、Xが指摘していますが、裁判所は、そのプロセスに照らして、この評価の合理性を否定しています。
 すなわち、店長評価で、詳細な理由とともにcが付けられているのに、何の理由も付されずに、その後の店舗運営評価と最終評価でdやeが付けられていること、などが指摘されているのです。
 労判での解説8頁にあるように、多くの場合、従業員の実際の能力が認定され(例えば、平均以上)、その能力と比較して人事考課が悪すぎる、と判断されることが多い中、ここでは、プロセスが合理的でない、人事考課制度の運用の合理性が疑わしい、という方法で判断されています。

2.実務上のポイント
 しっかりとした人事考課制度があると、人事考課の結果・内容についても、合理性があるのではないか、と積極的に評価されるところですが、この事案では、運用が悪く、逆に消極的に評価されてしまいました。
 もしここで、dやeの考課が合理的だ、とするためには、Xは、店舗運営評価と最終評価についても、評価の合理的な理由を記載しておくことと、店長評価を行った店長が、管理職者として、特に人事考課を客観的合理的に行う点で能力が低いと評価していること、の2つが最低限必要となるでしょうか。
 けれども、実際にEと日ごろから接し、管理している上司の判断を覆し、その方が客観的合理的であることを証明することは、容易ではありません。このように、上司の評価を基礎に置く人事考課制度は、会社からの政治的な理由による干渉がしにくい、という意味で、人事考課の客観性を担保していると言えそうです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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