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松下幸之助と『経営の技法』#127

6/21 寝ても覚めても

~お得意先と仕入先が絶えず気になるか。身を入れた商売ができているか。~

 商売や儲けを論ずるということは、実は国家社会を論ずるのと同じことなのです。つまり商売というものは、本当は非常に格調の高いもので、だからお互いに自信と誇りをもって、もっと格調高い商売をしなければならないと思います。
 こういう思いで商売を大事にし、商売に身を入れていると、自然とお得意先と仕入先のことが気になってくる。お得意先と仕入先を抜きにして商売というものは成り立ちませんから、お得意先と仕入先のことが気になって、じっとしていられないような思いになるものです。そして、あのお宅のあの製品にはもう油をさしてあげなければいけないとか、このお家にはこの新しい製品をお勧めしてみようかとか、あれこれと頭に浮かんでくる。自然、仕入先にも、いろいろと積極的な意見が出てくるようになります。
 もしも、お得意先と仕入先のことが絶えず気になるのでないとすれば、商売はやらないほうがよろしい。きついことを言うようですが、本当は寝ても覚めてもというところに、身を入れた商売というものがあると思うのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 金儲けが悪いことではなく、むしろ社会のために良いことなのだ、という話は、松下幸之助氏自身が繰り返し話しています。ここでは、それ以外の点について検討しましょう。
 すなわち、自信と誇りをもって商売に励む→商売に身が入る→お得意先と仕入先のことが絶えず気になる、という流れの意味と、それを内部統制上、どのように活用するのか、という問題です。
 まず、この流れの意味ですが、キーワードは「遣り甲斐」「手応え」でしょう。
 というのも、自信と誇りをもって商売に励むということは、商売が社会にとって有益であり、自分も社会に貢献していると思えることです。そうすると、仕事の「遣り甲斐」「手応え」を感じるようになり、商売に身が入ってきます。そうすると、より社会に貢献したいと思うようになり、お得意先や仕入先のことが絶えず気になってきます。
 さらに言えば、日ごろからお得意先や仕入先を大事に仕事をすると、お得意先や仕入先から感謝されたり、商売が大きくなったりして、自信と誇りは一層深まるでしょう。
 つまり、「遣り甲斐」「手応え」を手掛かりに、好循環が生まれるのです。
 次に、これを内部統制上、どのように活用すべきでしょうか。
 1つは、常にお得意先や仕入先のフォローをしろ、と規律付け、義務付ける方法があります。考えてみれば、例えばピアノを弾くのが上手で、しかもそれが好きな人はたくさんいますが、その人たち全てが、最初からピアノが好きだったとは限りません。お稽古事としてイヤイヤ練習させられていた時期もあるはずです。その意味で、お得意先や仕入先のフォローも、最初は命じられて行う時期があっても、ある程度仕方がないことでしょう。
 けれども、好循環を期待するのであれば、イヤイヤやらせてばかりでは無理でしょう。「遣り甲斐」「手応え」を感じてもらうのは、自発的・積極的に仕事に取り組んで欲しいからです。
 つまり、2つ目として、お得意先や仕入先のフォローをすることが、楽しい、と進んで行えるようにリードする方法が考えられます。つまり、規律付けや義務付ではなく、モチベーションを与え、動機付けとなるように活用するのです。
 ここでの松下幸之助氏の話し方は、規律付けの方に近いですが、動機づけとなるように持っていくことが本来の意図でしょう。檄を飛ばしているのです。
 このように経営者トップが檄を飛ばしているのですから、各従業員が自発的に動くように動機づけるのは、管理職の仕事となります。上手に褒めて、実績と手ごたえを与え、好循環を作り上げていくのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、お得意先や仕入先のフォローまで一々経営者が指示するようでは、会社の規模も大きくできず、ビジネスの機会も限られてしまいます。
 そのようなことの無いよう、従業員を自立させ、経営者のキャパシティーを超えた活動ができるようにする能力が、経営者にとって必要な資質の1つであることが、理解できます。

3.おわりに
 他人から搾取して金儲けするのではなく、相手も社会も得をする商売をしよう、というのが「三方良し」ですが、ここでの話も、この「三方良し」から出てきた発想と言えそうです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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