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松下幸之助と『経営の技法』#241

10/13 決意すれば道はつく

~不況時にはそれに向かう覚悟と用意をする。自分を叱りつけてがんばれば知恵は必ず出る。~

 不況というのは、大暴風雨に直面するようなものです。大暴風雨であっても、その中を歩いていかなければなりません。歩かずに退避する、というのも時には1つの方法でしょうが、企業経営において退避ばかりしているというようなことは許されません。やはり最後はいやでも立ち向かって歩かなければなりません。
 それには、そのための覚悟をし、用意をすることです。傘なり雨具なりをもっと丈夫なものにするとか防寒服でも着るとかの用意をすることです。
 そして、私の体験からいいますと、落ち着いてよく考えさせすれば、雨の強さ、風の強さに応じて、傘をさす方法もありますし、風よけをするような心がまえも湧いてくるものだと思います。それは、このまま対比することはできない、どうしてもこの大暴風雨に向かって進んでいかなければいけない、という決意をすれば、そこに道というものはつくものだということです。
 いずれの時にも、身を切られるような思いに悩みつつも勇気を鼓舞してやっていく、崩れそうになる自分を自分で叱りつけて必死でがんばる、そうすればそこに知恵、才覚というものが必ず浮かんでくるものです。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 先に、松下国之介氏が実際に「大暴風雨」に向かって進み、道をつけた例は、8/28の#195で紹介された、昭和4年の大恐慌への対応があります。ここで、氏は、従業員削減ではなく生産調整をすることで、従業員の雇用を維持しつつ、会社の存続の危機を回避しました。
 言ってみれば、従業員と会社を一蓮托生にして、危機を乗り越えたのです。
 もちろん、氏には、この他にも危機があって、いずれも乗り越えてきたはずだし、それぞれに対策も異なったはずです。そのような、危機ごとの乗り越え方にも興味が湧きます。
 けれども、ここでは、危機の乗り越え方ではなく、危機に直面した時の心がまえの方に重点があります。その中でも特に、リスクを避けるだけでなく、取るべき場合がある、という点に注目しましょう。
 これは、まずガバナンスの観点から見ると、経営者の立場やミッションに関わります。
 すなわち、経営者はリスクを避けることが仕事なのではなく、むしろ逆です。
 もちろん、取るべきではないリスクを取ってはいけませんが、会社が適切に儲けるためにも、あるいはここで示されたような、会社が存亡の危機を乗り越えるためにも、リスクを取らなければならない場面があります。
 これは、経営者は「儲ける」ために株主から雇われているのであって、儲けることがミッションであること、儲けるためにはリスクを(ある程度)取らなければならないこと、から理解できることです。
 むしろ、経営者はリスクを取ること、つまり腹を括って、責任を取って、経営のリスクを取るのが、その仕事なのです。部下を育て、そのために部下に任せる、というプロセスも重要ですが、それが機能するのは、経営者がしあ風的な責任を負うからであって、経営者が責任を部下に負わせることは、部下に対する権限移譲とは言いません。このように、重要な場面では、経営者がリスクを取らなければならない、というガバナンス上の基本的な構造を、ここで明らかにしているのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 社長がリスクを取るとしても、いきなり何の検討もせず、思い付きで物事を決めて良いわけではありません。リスクを取るからには、①まずは、重要なリスクに気づき(リスクセンサー機能)、②そのリスクを適切にコントロールして(リスクコントロール機能)、そのうえで初めてリスクを取ることが、現実的に可能になります。
 ここで、氏はそこまで論じていませんが、経営者がリスクを取る決断をするためには、組織が決断できる状態にまでリスクをコントロールし、そのお膳立てをしなければならないのです。

3.おわりに
 色々と難しいことはいくらでも言えるのですが、やはり、松下幸之助氏は実際に修羅場を潜り抜けてきた経験が、強さと魅力の源なのでしょう。
 腹を括るタイミングも、腹の括り方も、後からついていく経営者たちにとって、学ぶべきことが沢山あるのは、その修羅場を乗り越えた経験の多さによるところがあるはずです。
 氏が言うことの中には古いこともあるでしょうが、そこは、受け止める側の問題です。古くても新しくても、状況が違うのですから、そのまま他人の言うことを真に受けてそれだけをすれば良いわけではありません。先人の経験のどこが生かされ、どこは参考にならないのかを見極めることが、学ぶべき立場の者にとって必要なことなのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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