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松下幸之助と『経営の技法』#70

4/25の金言
 日ごろの応対や電話の扱いはどうか。臨機応変の処置がとれているか。

4/25の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 以前、ある会社に電話をかけたところ、社長が2、3日留守、という返事だった。電話を切りかけると、その人が「緊急の誤用でしたら、連絡をいたしましょうか」と言うので、折り返しを依頼したところ、ちゃんとその夜に長距離電話がかかってきて、思ったよりも早くその用件をすませることができた。電話担当者の「連絡しましょうか」のひと言がなかったら、そううまく処理できなかった。
 一見、ごく些細な、何でもないようなことだが、こういうことが、さっとできるということは、非常に大事な点だ。おそらくこの会社では、社長が日頃、人との応対、電話の扱いについて、やかましくいっているのだろう。だからこそ、留守を預かる人も、それにふさわしい心配りというか、臨機応変の処置がとれたと思う。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、指導した経営者も、それを実践した従業員も、いずれも称賛していますが、特に注目するのはその内容です。留守です、という形式的で無難な対応に終わるのではなく、出張中の社長から折り返しの電話をさせるという、臨機応変な対応が評価されているのです。
 もしかしたら、担当者の柔軟な対応ではなく、松下幸之助氏から電話があった場合の特別対応まで社長が指示していたのかもしれません。それであれば、様々な事態まで想定して入念な指示を与えていた、という経営者の用意周到さが称賛されていることになります。
 あるいは、そのような指示がないのに担当者が柔軟に対応したのかもしれません。どうやら、誰にでも社長から折り返させているわけでもなさそうですので、話の内容や、松下幸之助氏からであるという点から判断したことになります。
 このような柔軟な対応をさせるような教育は何でしょうか。
 社長から折り返しする場合としない場合の区別が簡単に線引きできず、マニュアル化も難しいでしょうから、会社にとって何が重要かという点を予め広範囲に理解していることが必要です。一朝一夕にできる判断ではなく、普段からそのような判断を任せ、その良し悪しを事後的に検証し、フィードバックして精度を高めるとともに、自信もつけさせていたのでしょう。
 何が本質的に重要なのか、というポイントを、実際の業務を通して教育していたように思われます。
 松下幸之助氏は、電話の取り次ぎのやり取りから、その背景にある会社内での教育や実践の様子を感じ取っていたのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、現場の柔軟で主体的な対応を可能にする教育が、経営者に求められる素養の1つ、と見ることができます。
 もちろん、様々な方法がありますが、ここで引き合いにされた「柔軟な」対応を可能にするような教育は、厳しくしつけるだけの教育とは違うように思われます(会話の様子を簡略化してしまったのでニュアンスが伝わらないかもしれませんが、気になる方はぜひ原文をご覧ください)。
 自分の留守を任せられる人を育てる、というところが、人材教育の1つの重要な場面を象徴しているのです。

3.おわりに
 留守の間よろしくね、と、あれもこれも指示していくタイプと、任せるタイプと、これは経営者の個性の問題でもあるでしょう。家を留守にして旅行に行く家庭の主婦の場合も、詳細に指示を書置きしていくタイプから、突然「よろしくね」のメモだけで出かけてしまうタイプがあるのと同じです。
 どちらが良い、ということではなく、それぞれにあった方法がある、但し、会社の場合には従業員の教育、という効果(単に留守を任せるという一時的な問題に終わらない問題)がある点が異なるかもしれません。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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