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松下幸之助と『経営の技法』#161

7/25 やれば必ずできる

~”やれば必ずできる”と力強く訴えてこそ、知恵が集まり、よりよいものが生み出される。~

 責任者ができないと思ったならば、できるものでもなかなかできません。しかし、責任者が”これはやれば必ずできるぞ”という考えに立ち、十人なら十人いる部下を集めて、「これは、こういうことでやりたいと思う。諸君、やってくれるか。私はやれると思うから、諸君もぜひ力を尽くしてほしい。諸君が協力してくれるなら、自分が先頭に立ってやるから」と力強く訴える。そうなれば部下も「大いにやりましょう」ということになってきて、ついにはそれが実現できるものです。
 もちろん、その場合、目指す目標がいわゆる理にかなったもの、道にかなったものでなければなりませんが、そうである限りは、すべてが予期した通りにいくということはなかなか難しいにしても、ややそれに近い情勢は、必ず生み出していけるものだと思います。私自身も、これまで概ね、そういうやり方をしてきましたが、責任者のそうした呼びかけ、訴えがあれば、そこに社員全員の衆知というものが集まって、全員の知恵で新しいものが発見され、製造なり技術においても、販売法についても、あるいは経営の仕方そのものについても、より新しくよりよいものが生み出されてくるものです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 1つ目は、モチベーションです。
 これは、特に松下幸之助氏が繰り返し話すような、統制よりも自主性を重視し、多様性を尊重する経営モデルの場合、特に重要です。従業員のモチベーションを高めるためには、様々な方法がありますが、目標が達成できることをリーダーが請け負うことも、その1つの方法である、というのがここでの説明です。
 すなわち、リーダーが成功を請け負うということは、多くの会社では、仕事を部下に押しつけるのではなく、必要な予算を確保したり、他の仕事を減らす調整をしたり、他部門の協力支援を確保したり、目標を達成すれば会社から高く評価される約束を獲得したりするなど、メンバーが仕事をするうえで必要有益なサポートをしてくれることも、当然意味するでしょう。組織である以上、単なる「気持ち」だけの支援でなく、現実的な支援も必要だからです。
 そして、自分たちの仕事が、会社のサポートを得ている、という手応えや自信が、メンバーのモチベーションや自主性を高めることが期待されるのです。
 2つ目は、衆知を集め、リーダーが成功を請け負う点です。
 これは、形が若干異なりますが、「衆議独裁」として何度か紹介してきた内部統制の在り方と同様です(7/2の#138等)。すなわち、意志決定の過程では、多くの意見や情報を集めることで、デュープロセスを満たしてリスクをコントロールし、従業員の参加意識やモチベーションを高める一方で、執行の過程では、責任と権限の所在を明確にし、組織の一体性を維持する、というものです。
 ここでは、皆の意見を集める前にリーダーが目標設定を請け負っており、「衆議独裁」で通常想定している順番とは逆ですが、また、リスク管理の要素が少ない点も異なりますが、「衆議独裁」と同様の要素が含まれているのです。
 3つ目は、目標が「理」「道」に適っていなければならない、と説いている点です。
 ここで、理不尽な目標を設定し、リーダーによる成功の請け負いが合理性のない「根性論」であれば、メンバーたちは、自主性やモチベーションを高めるのではなく、逆に、嫌々やらされる意識に変わっていくでしょう。これでは、従業員の自主性を高めるという期待された効果が期待されないどころか、むしろ逆効果になってしまいます。
 他方、その目標が道理に適っていれば、そこに合理性があり、そもそも相当程度の達成確率があることになります。チャレンジする目標や、チャレンジする決定自体の合理性が上がり、リスクも小さくなりますし、従業員も達成感を共有できる可能性が高くなります。これが、リーダーシップと信頼を共に高めていくことにもなり、相乗効果や好循環が期待されるのです。
 4つ目は、リーダーがリスクを取っている点です。
 ここでもしリーダーが、目標達成を請け負わず、全てお前たちの責任だ、と受け取られかねない発言をしていたらどうなるでしょうか。
 メンバーの意識は上がることがなく、すると、そのような従業員に対するリーダーの不満から、指示や締め付けが厳しくなっていき、さらにメンバーの意識が下がっていく、という悪循環が想定されます(最悪シナリオ)。
 ガバナンスの場面で、経営者の仕事はリスクを取ること、すなわち決断してチャレンジすることであり、それができるからこそリーダーです。これと同じことが、内部統制の中で、リーダーに求められています。つまり、リーダーもリスクを取り、成功を請け負うからこそ、メンバーが付いてくるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、例えば7/10の#146などで繰り返し検討しているとおり、経営者が全ての案件と全従業員をコントロールしようとする、一体性を重視する経営モデルではなく、経営者のキャパシティーを超えた活動を可能にするためにも、従業員の自主性を重視し、多様性を尊重する経営モデルを、松下幸之助氏は一貫して推奨しています。
 ここで氏が説くように、リーダーが目標の達成を請け負い、メンバーのやる気を引き出す方法は、このような自主性を重視するモデルでこそ生きる方法です。
 さらに、経営者のミッションが「適切に儲ける」ことにあり、そのためにリスクを取ってチャレンジする決断をすることが必要です。社内のリーダーにもこのような判断をさせるということは、リーダーに、会社経営者としての意識を持たせることになり、後継者の育成にもつながりそうです。

3.おわりに
 似たような言葉に、「努力は必ず報われる」という言葉がありますが、こちらの言葉は、有害です。あまりお勧めしません。
 結果が出なくても、その過程での努力はどこかでプラスになる、という意味でしょうが、世の中、無駄な努力は溢れています。この言葉を真に受けた人は、報われない世の中を逆恨みし、あるいはこの言葉を発した上司や会社を逆恨みします。もちろん、努力しなければ成功はあり得ませんから、努力することと努力しないことの間には大きな違いがありますが、その努力をさせるためのインセンティブとして、「必ず報われる」というコミットメントは、例えば会社の場合、ちゃんと良い評価や査定をつけてあげる、という約束に聞こえてしまうのです。
 他方、ここで松下幸之助氏が紹介した、「やれば必ずできる」という言葉は、全ての事柄についてのコミットメントではなくて、当該個別具体的な案件についてのコミットメントである点で、異なります。さらに、失敗した場合どうなるのかについての約束もありません。
 微妙な違いのようですが、このような違いを従業員はよく覚えていますので、後で揉めることの無いように、その場の勢いだけで調子の良いことを言わないよう、注意しましょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

<本日です!>


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