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松下幸之助と『経営の技法』#59

4/14の金言
 指摘され、注意され、叱られてこそ、人にも会社にも進歩発展が生まれる。

4/14の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 新入社員は、電話もかけられず、手紙も書けないが、上司や先輩が注意してくれるから、「うるさいな」と思いながらも、早くそう言われないように、自分でも努力し、しだいに要領を覚えて、一人前の社員になっていく。
 黙って放っておかれたら、慣れによる多少の上達はあっても、まあこんなことでいいだろうと自分を甘やかしてしまい、いつまでたってもそのままで終わってしまう。結局、注意されない、叱られない、というのでは進歩発展は生まれず、その人、会社、社会のためにならない。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 この言葉は、新入社員に向けたメッセージのようですので、新入社員個人への教訓という意味がありますが、会社経営の観点から、いろいろな意味を読み取ってみましょう。
 1つ目は、若手育成の重要性です。
 特に、人材の適度な流動化は、組織の活性化にも必要です。社会人未経験者を採用するよりも、スキルと経験のある人材を中途採用した方が効率的、とする会社もありますが、新人を自分たちで育てる、ということが、既存の従業員のモチベーションや帰属意識を高める効果もあるため、現在でも多くの会社で新人が採用されています。
 2つ目は、社風や企業文化の問題です。
 社員同士の競争の方を重視し、優秀な社員だけを残すような文化の場合には、相互に教育し合うようなことはなかなか考えられません。しかし、競争の厳しい会社でも、新人を採用する場合には、先輩が後輩を指導し、競争の前提となる最低限の教育だけはする場合があります。競争と言っても一緒に働くことが多く、新人の無礼によって自分の業務に悪影響が出るのを防ぐ、というだけでなく、適切な競争が働くからこそ会社全体にメリットがあることから、そのためにも最低限の教育が必要になるのです。
 3つ目は、コミュニケーションの重要性です。
 仮に、社内での競争を重視しているとしても、電話対応や手紙などの失敗で揚げ足を取り合うような競争は、プラス面よりもマイナス面の方が多いですから、基本的なレベルでの注意や指導は、ケチケチせずに声を掛け合うぐらいのコミュニケーションは、最低限必要です。競争よりもチームワークを重んじる場合であれば、なおさらでしょう。コミュニケーションが取れ、活気のある職場は、刺々しくて寒気すら感じる職場よりも、業務の生産性の高いことは、誰でも理解できることです。
 4つ目は、マネージャーの力量です。
 このように見ると、チームワークと言ったところでぬるま湯では駄目で、他方、競争と言ったところで刺々しくても駄目です。ゼロか百か、という話ではなく、それぞれの会社に合ったバランスの問題であって、その組み合わせ方には多くのバリエーションがある中で、そのバランスを決めていくのは、経営の発信するメッセージと、それをそれぞれのチームで実践するマネージャーです。現場の緊張感と活気のバランスという微妙で繊細な問題もコントロールしなければならないので、マネージャーは大変なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、新人教育に象徴されるようなサステナビリティや組織の活性化など、組織の基盤となる部分への配慮と対応ができることも重要な資質です。短期的な成果だけ上げて、高い報酬を獲得して逃げていくような経営者ではなく、会社の基礎体力を高め、中長期的な発展を可能にする施策を行うべき経営者、ということになります。

3.おわりに
 松下幸之助氏の言葉には、ここで見たように日本の伝統的な「和」を重んじるものが多いようですが、けれどもしっかりと自立して、他人に甘えるのではなくしっかりと競争し、研鑽するように、檄を飛ばすものも見受けられます。
 すなわち、どちらが正しいのか、という問題ではなく、両者のバランスの問題です。
 同様に、経営の観点から見れば、対立するアドバイスを別の機会に言っていて、どっちなんだ、と思うことに何度も出会います。
 けれども、これは「孔子」の教えも同様です。理想とするイメージがあり、公私が話す相手が右にずれていれば左を、左にずれていれば右をアドバイスする、ということなのです。
 そうすると、新人教育やコミュニケーションは、うちの会社には関係ない、ということはあり得ず、バランスを取るうえでこれで大丈夫だろうか、と考えるべき要素として、全ての会社に関わる問題ということができます。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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