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労働判例を読む#345

今日の労働判例
【医療法人社団弘恵会(配転)事件】(札幌地判R3.7.16労判1250.40)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、介護施設Yで働く介護士Xが、不本意な配置転換について無効であると争った事案で、裁判所はXの主張を認めました。

1.判断枠組み
 裁判所は、配置転換の有効性について、著名な東亜ペイント事件(最二小判S62.7.24労判477.6)を引用し、①業務上の必要性の有無、②不当な動機・目的の有無、③通常甘受すべき限度を著しく超える不利益の有無、の3点によって、権利濫用の有無を判断する、という判断枠組みを示しました。
 本事案は、デイケア部門の従業員がXら数名を残して全員退職してしまい、一度デイケアセンターを閉鎖し、Xらに退職を促すかのような閑職と他者と交流のない執務場所を与えつつ、デイケアセンター再開のための募集を行っていた事案です。特に②の存在は、判決文を読む限り問題なく認定されるところで、裁判所も、①②を検討しただけで、③の検討を省略して、配置転換を無効としました。

2.実務上のポイント
 かなりあからさまな「退職部屋」「追込部屋」が、いまだにあることも驚きですが、Xの上司のパワハラに該当するかのような言動と、それによってデイケア部門が崩壊したのに、Xを再開のために活用しようとしないYの経営判断が、特に気になります(当該上司がそのままYに残っているのかどうかは、よくわかりません)。
 客観的に見て、大部分の従業員が退職して部門を崩壊させるような管理職者のマネジメントに、もっと早い段階で気づき、対応を打つべきであったことは明らかです。何が原因で、どのような対応ができたのか、ということまでは判決から読み取れませんが、管理職者の管理状況を経営も適切に把握することの重要性が理解できます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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