労働判例を読む#257

【P社ほか(セクハラ)事件】大阪地裁R2.2.21判決(労判1233.66)
(2021.5.26初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、会社Y1の創設者である理事長Y2が、女性従業員X1とX2にそれぞれ別の機会にセクハラをし、不当に解雇した、としてXらがYらを訴えた事案です。裁判所は、X1に対する一部の言動についてセクハラを認めたほかは、X1に対するその他の言動やX2に関しセクハラを否定しました。

1.セクハラの認定
 セクハラに関して判決に至る事案では、ほとんどセクハラに関し、加害者(通常、上司)がハラスメント行為を否定したり、被害者の同意があると反論したり、覚えていないととぼけたりします。特に、セクハラには証言や証拠がない場合も多く、セクハラ行為を上司が真っ向から否定する場合には被害者と加害者の証言が対立し、真偽不明となるようにも思われます。
 けれども、この判決も含め多くの裁判例では、両者の証言が対立するだけで簡単にセクハラ行為を不存在と認定するのではなく、両者の証言の具体性や迫真性、合理性なども検討したうえで、セクハラ行為の有無を判断しています。
 具体的には、まず証人がいる場面として、Y2がX1やX2に鍼灸師にマッサージを受けさせた行為について、鍼灸師の証言も踏まえて、セクハラ行為に該当するような事情が無かったと認定しています。
 次に、証人がいない場面として、例えばY2がX2にオランダ出張前に同じベッドに寝るように命じたとする点については、X2の証言の具体性が乏しいことや、その後のやり取りとの整合性などから、セクハラ行為を否定しています。
 他方、Y2がX1にローマ出張中にタクシー内で愛人になるように話したり、ホテルで同室になって性的交渉を連想させるような言動や先にシャワーを浴びるような言動をしたり(Y2がシャワーを浴びている間にX1は一人で急遽帰国した)した点については、逆に、X1の証言の具体性・迫真性に加え、その後のLINEでのやり取りなどとの整合性などから、セクハラ行為を肯定しています。
 このように、証言が対立する場合に立証失敗として簡単にセクハラ行為を否定せず、被害者が主張するエピソード一つひとつについて、セクハラ行為該当性を判断しており、最近の裁判例の傾向にも合致するのです。

2.実務上のポイント
 その他にも、合意解約や解雇の合理性も問題になっていますが、これらの検討は省略します。
 最後に指摘しておきたいポイントはX1の被害申告に対して、Y1が適切な調査や対応をしなかった点が、違法と評価された点です。ハラスメントの申告に誠実に対応しないことが、ハラスメントとは独立した別の違法行為であると認定されました。損害賠償金額としても、1年間というX1の請求の全ては認められなかったものの、Y1が誠実に対応していればY1にもうしばらく勤務できた、というX1の主張を認めたのでしょうか、3か月分90万円の支払いを命じました。
 厳密にいえば、会社が誠実に調査・対応していれば会社にもっと長く勤務できたかどうかの検証も必要なところですが、厳密な立証は現実的でないこともあり、比較的「えいや」と3か月分の逸失利益を認めたのです。
 このように、ハラスメントの申告に対する誠実な対応は、勇気を振り絞って申告してきた従業員を逆に追い詰めないためにも必要なことなのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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