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労働判例を読む#344

今日の労働判例
【学校法人河合塾(雇止め)事件】(東京地判R3.8.5労判1250.13)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、予備校講師Xが、生徒のアンケートなどに基づく人事考課が悪いことを理由に担当コマ数を削減した契約更新を、予備校Yから提案されたところ、それに不満があるために拒絶したところ、契約更新されなかった(雇止め)事案です。裁判所は、契約更新の拒絶(雇止め)を有効としました。

1.更新の期待の有無と内容
 Xは、前年と同じコマ数での更新の期待があると主張しました。
 しかし裁判所は、更新の期待があること自体や、いきなりコマ数ゼロにされない旨の期待があることは認めましたが、前年と同じコマ数での更新の期待までは認めませんでした。より正確には、「コマ数減の提示をされる可能性を前提としつつ、少なくとも講座を複数担当する内容の出講契約」の更新の期待が認められたのです。
 生徒による評価(授業アンケート)などにより担当コマ数の増減がある(したがって、同じコマ数を期待できない)ものの、かといっていきなりコマ数がゼロになった例もない(評価の影響がそこまで大きくない)ことから、このような判断になりました。
 合理的な内容の契約条件での更新が期待される、ということになりますから、次にどのような契約条件なら合理的なのか、という議論が残ってしまいますが、それでも相当程度の更新の期待が認定される点で、契約の実態に即した判断方法として注目されます。

2.コマ数減の合理性と更新拒絶の合理性
 本事案では、Xが労働組合の活動と称してYの提案を拒否し、抗議する言動を取りつつ、解決に向けた話し合いの提案を拒否した、などの事情も指摘していますが、裁判所は、更新拒絶の合理性に関して「殊に」として重要な事実をまとめています。それは、①「コマ数減提示は、客観的に合理的であることを基礎づける理由が認められる」こと、②「他の有期労働者である講師との間で均衡を欠くものではな(い)」こと、③「原告の不利益の程度にも配慮された内容」であること、③「提示に至るまでの具体的な経緯に違法、不当な事情も見当たらないこと」、の3点が指摘されています。①が会社側の事情、②が従業員側の事情、③がプロセスその他の事情、と整理できます。
 もちろん、①~③は詳細な事実認定のうえで示された評価ですから、重要なのは具体的な事実です。例えば①に関し、非常に丁寧な人事考課制度とプロセスが実際に運用されていますし、②に関し、2コマ減少している講師もいる中で、Xは1コマ減少にとどめるなどの配慮も示されています。
 具体的な事実やプロセスがこれらの要請を満たすかどうか、会社は自身の人事制度を見直す際の参考にしてください。

3.実務上のポイント
 Yからのコマ数減の提案とそれに関するプロセスの合理性を主な根拠に、更新拒絶の合理性が認められましたが、提案は提案として合理性を判断するにしても、それを受け入れなければ直ちに更新拒絶の合理性が認められない場合もあり得るでしょう。
 実際、本事案でも、Xが労働組合の活動と称してYの提案を拒否し、抗議した点について、問題点の一つとして検討されています(結果的に、上記のとおりXの抗議の合理性が否定されています)。
 十分検討した次年度の契約条件であれば、それを従業員が受諾するかしないかの二者択一である、と簡単に整理することは危険ですので、その点も注意してください。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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