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松下幸之助と『経営の技法』#74

4/29の金言
 武士道精神と同様に産業人精神がある。その使命を認識せずに産業人とはいえない。

4/29の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 何か立派なものをもたなければ武士といえなかった、それが昔の武士道精神だったと思う。
 これにかわる今日の産業人精神も、やはり同じようなものをもたずしては産業人とはいえないと思う。ただ自分の立場のみを考えて働くのでは、産業人とはいえない。
 産業の使命をはっきりと認識し、その尊さを認識し、そしてその産業の興隆によって社会が潤い、人々の幸福も約束されていく、社会生活も国家も発展していく、さらに進んでは世界の繁栄、平和にも結びついていくのだ、自分はその一員である、というような意識をもたずしては、私は真の産業人は養成されないという感じがするのです。

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもとは順番が違いますが、最初に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 これは、まず社長のミッションから理解するのがわかりやすいからです。
 すなわち、投資家である株主と経営者の関係で見た場合、社長のミッションは「儲ける」ことですが、一発勝負ではありませんので、継続的に「儲ける」必要があります。
 度重なる品質偽装問題でも分かるように、社会に対して嘘をつくなどの方法で社会から嫌われた会社は、場合によっては倒産に追い込まれるほど、大きな痛手を被ります。したがって、会社は社会の一員として受け入れてもらわなければならず、単純に「儲ける」のではなく、「適切に」「儲ける」ことが必要です。
 しかし、社会に嫌われないように縮こまっていては駄目です。
 「儲ける」ためにはチャレンジしなければならず、そのためにはリスクを取らなければならないからです。すなわち、リスクを避けるのではなく、適切にリスクをコントロールしてリスクを取るからこそ、チャレンジになり、「儲ける」可能性が出てくるのです。
 ここまでが、ガバナンスの話であり、経営の話です。
 社会との関係に話を戻しましょう。経済の話です。
 会社が、社会との関係でリスクを取り、チャレンジすることは、ときに会社と社会の間に軋轢が生じるかもしれませんが、社会に受け入れられる商品やサービスを提供するからこそ、「儲ける」ことができます。これは、会社が市場のプレーヤーとして認められ、市場取引に参加しているからこそ得られる成果です。
 つまり、社会に受け入れられる商品やサービスを提供することが、市場に参加し続ける資格なのです。
 同時に、市場参加者が増え、市場が発展していくと、社会が豊かになり、社会が豊かになれば、奪い合うための戦争なども減るはずです。
 このように考えると、良い商品やサービスを提供することが、市場を通して社会に貢献するのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 1つ目のポイントは、リスクを取ることの意味です。
 これは、博打やギャンブルではありませんので、ビジネスとして適切でなければなりません。デュープロセスを尽くし、やるだけのことをやり、人事を尽くして天命を待つ状態にしてリスクを取るからこそ、失敗しても経営判断として許してもらえるのです。
 したがって、会社を人体に例えた場合、体全体に張り巡らされた神経のように、会社の全従業員が、リスクセンサー機能を果たし、会社自身でリスクコントロール機能を果たさなければなりません。そのような組織やプロセス、ルールを作り、PDCAを回しながら適切な会社組織を作り上げ、磨き上げていくことが、経営者に求められるのです。
 2つ目のポイントは、従業員の意識です。
 この説明を従業員の側から見た場合、従業員全員が意識的に仕事に取り組まなければなりません。例えば、納品された原材料の品質の以上に最初に気づくのは、いつも原材料を受け取り、最初に中身を確認する現場の担当者であり、法務部員ではありません。
 そして、従業員全員が意識的に仕事に取り組むための主体性やモチベーションには、様々なものがありますが、ここで松下幸之助氏が指摘するような、「産業人精神」のような誇りや自信も、とても重要な要素となり、大切に育てていくべきことなのです。

3.おわりに
 今回は、経営に関する特定の問題に切り込むのではなく、むしろ経営の全体像を描くために、一歩後ろに下がって検討してみました。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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