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松下幸之助と『経営の技法』#218

9/20 うまくいく会社、いかない会社

~当社の社員は皆偉い、と思えるか。自分より偉い人ばかり、と言えるか。~

 世間の多くの会社を見てみると、あるいはうちの得意先を見てみると、そこには立派な社長もおれば専務もおられるのに、うまくいかないところがある。
 うまくいかないところは、「自分の会社の社員というものは皆あかん、間に合わん。困ってるのや」ということを訴える。そういうところはなかなかうまくいかない。
 しかし、「いや松下さん、うちの社員は皆偉いですわ。私より偉うおますわ」と言う社長の会社はうまくいく。そうなっています。
 そういうことが言えるかどうかということですな。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 前者の発言は、従業員に仕事を任せていないことの証拠になります。もちろん、試しに任せてみたが駄目だった、という場合もあるでしょう。しかし、肩書や責任の重さが人物を育てる、と言われるとおりです。本当に任せて、辛抱強く育つのを待てば、見違えるほど成長してくれることが多いはずですから、前者の発言は、任せたと言いつつ本当は口出しばかりして、こちらの顔色をうかがう状況を改善せずに、ほら見ろ、成長しないじゃないか、と愚痴を言っている場合が多いように思われるのです。
 任せられる人がいない、だから任せない、したがって任せられる人が育たない、という悪循環に陥っている場合が多いように思われるのです。
 他方、後者は任せてみたら思いのほか成長してくれた、という場合が多いように思われます。特に、松下幸之助氏が8/5の#172で、60点の人にも任せてしまう、と言っているように、その時点で任せる実力が多少足りなくても任せてしまいますから、そこからの成長を実感できる事例が豊富にあるのでしょう。
 このことから、前者の発言を振り返ると、前者の発言をする経営者は、安心して任せられる100点のレベルの人を基準に置いているので、人材がいないように見え、後者の発言をする経営者は、何とか任せてみようと思う60点のレベルの人を基準に置いているので、人材が豊富に見える、そういう違いかもしれません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、投資する資本と会社を託す経営者に求める資質として参考になるポイントを、松下幸之助氏の言葉から読み取ると、繊細さと大胆さの両立が重要である、と指摘できそうです。
 それは、松下幸之助氏が、非常に細かいところまでこだわった仕事を求める繊細さがある一方で、任せるべき人は60点の人でもよく、しかも丸投げするのではなく自分が責任を負いますから、この点についていえば、非常に応用に構える大胆さがあるからです。
 つまり、後者の発言をする経営者は、仕事の質に関して細かくて厳しい要求がある場合であっても、任せる部分については大胆さがあるのに対し、前者の発言をする経営者は、仕事の中身だけでなく、従業員に仕事を任せる部分についても繊細であり、大胆さが足りないように思われるのです。

3.おわりに
 様々な経験をし、成熟した経営者から見れば、若い従業員は足りないところだらけでしょう。若い従業員で、自分と同じレベルの満足できる従業員は、むしろそう簡単に見つかるはずがありません。かくいう経営者自身、その若い従業員と同じ世代のとき、一体どのレベルだったのでしょうか。
 ここで対比される2つの発言は、世代間ギャップに対する高齢者の言い分の違いとオーバーラップするように感じます。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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