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労働判例を読む#171

「協同組合つばさほか事件」東京高裁R1.5.8判決(労判1216.52)
(2020.7.23初掲載)

 この事案は、技能実習生Xらと、それを受け入れて農作業をさせていた農家らや実習生を受け入れていた協同組合Yの間のトラブルです。X以外の実習生に対するセクハラの有無(否定)や、「大葉巻」という作業の労働時間該当性(肯定)も問題になりましたが、ここでは、Xの解雇の有効性を検討します。
 これは、YがXの解雇のことを離職票に「重責解雇」と表現したことから、Xがこれを「懲戒解雇」に該当する、しかしYは懲戒事由に関する定めだけでなく、そもそも就業規則すら定めていない、したがって解雇は無効である、と主張した問題です。
 裁判所は、解雇を有効と判断しました。

1.解雇の有効性

 1審判決は、業務内容を変更されたXが、Yの内の1名である協同組合を潰すと発言し、実習生らと共に協同組合の指示に反抗し、その一環として警察を呼んだり、協同組合内部の監査結果報告書を持ち出したり、業務命令に反して無断外出したりしたことが認定され、「合理的な理由」と「相当性」がある、と評価しました。
 ここで特に注目されるのは、「相当性」の判断に関し、信頼関係が失われていること、Yへの復職が現実的ではないこと、が指摘されている点です。
 雇用契約を「契約」として見た場合、労務を提供できないことは(従業員側に責任がある場合ですが)「履行不能」に該当します。そして、この「履行不能」かどうかについて、単に体力や能力だけでなく、Xの意欲や人間関係も考慮されました。
 さらに、2審判決では、懲戒事由が定められていない状況では懲戒解雇ができないが、「懲戒解雇」として無効であっても「解雇」として有効になりうる、という判断を示しました。
 結局、Yの主張(重責解雇は懲戒解雇ではないという主張)を採用したので、この「懲戒解雇」も「解雇」として有効になりうるというルールは、理論的に必要ありません。懲戒解雇であっても普通解雇であっても本事案でXの「地位を不当に不安定にする」ものではない、という判断と、その背景にある考え方が共通している、ということのようです。

2.実務上のポイント

 本事案は、かなりエキセントリックな従業員にかき回された事案ですが、技能実習生を安い労働力と位置付けることの問題が根底にあるようです。
 すなわち、実習生は、シャワー室に脱衣所もない相部屋で共同生活させられるなど、厳しい環境下で、時給400円と評価される「大葉巻」の作業を、日中の畑仕事ごに行う状況にありました。
 職場環境が悪いとどうしても荒んでしまい、トラブルも多くなります。結果的に、Xがトラブルメーカーだった、という判断が下されましたが、法的にそれで良くても、経営として見ればそのようなトラブルが生じやすい環境を作ること自体が、経営上の損失です。
 法的にどこまでできるのか、という観点だけでなく、なぜ本事案でこのようなトラブルに発展したのか、それはどのように回避できたのか、という観点も、労働判例を読み込む際に重要な問題意識です。

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※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!



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