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松下幸之助と『経営の技法』#151

7/15 相談的に

~命令的に言うのでなく、相談的にやるようにする。~

 なるべく相談的にやることが大事だと思う。つまり、ただ「こうしてくれ」と言うのでなく、「こういうことをしようと思うが、君どう思うか」、あるいは「君やってくれるか」という具合にするわけである。そうすれば部下のほうも「私も賛成です。ぜひやりましょう」と言う場合もあるだろうし、「大変結構なことだと思いますが、このところはこうしたらどうでしょう」というように意見を言う場合もあると思う。そのように部下の意見が加わることによって、さらによりよいものができるかもしれない。また、「よろしゅうございます」という場合でも、相談的に言われたのであれば、そこに部下としての判断が加わるから自主的にそれに取り組むということになると思う。それをただ命令的に言ったのでは、いわゆる“命これに従う”ということになってしまう。そういう姿で仕事をやるというのもそれはそれで一つの行き方かもしれないが、やはりそれだけでは部下の十分な成長は期待できないと思う。もちろん、それぞれの職場の事情とかいろいろあって、かたちの上では命令的になるという場合もあるだろう。しかし、そういう場合でも心の中では相談的にやるという気持ちをもつことが大切だと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、従業員のやる気を引き出す方法を説いています。この点について、7/6の#142で、山本五十六氏のいわゆる「やって見せ」を紹介し、検討しましたが、ここでは、違うツールを検討します。
 それは、①「違和感」、②「最悪シナリオ」、③「文殊の知恵」、④「ローリング」などの、コミュニケーションツールです。
 これらのツールは、私の『法務の技法(第2版)』で紹介されていますので、詳細な説明はしませんが、自主性を育てるツールとして使えるポイントを検討します。
 例えば、①「違和感」は、社内での打ち合わせの際、「これで良い?」と聞く代わりに、「これで違和感ない?」と聞く方法です。
 「これで良い?」と聞く場合には、部門としての正式な判断や意向を聞いているように聞こえますので、相手は身構えてしまいます。持ち帰って検討して回答する、ということにもなりかねません。
 他方、「これで違和感ない?」と聞く場合には、部門としての判断や意向ではなく、個人としての感触を聞くことになります。しかも、理論立てて意見を述べることまで要求しておらず、感想や感覚が聞かれているだけですので、まずは直感的な話だけできれば、質問に対する回答として十分です。むしろ、感覚的な話をしてくれれば、それを素材に新たに議論ができますので、直感的な回答こそ歓迎される回答です。つまり、「これで違和感ない?」という問いかけは、回答のハードルを下げるだけでなく、自分の意見を言わせることに繋がるのです。
 ②「最悪シナリオ」、③「文殊の知恵」、④「ローリング」も同様です。②「自分は、こういう事態が「最悪のシナリオ」だと思う」、③「こういう対策はどうだろう(文殊の知恵)」、④「実際にプロセスを組むと、こういう流れになるかな(ローリング)」、などの発言を相手に促すことで、相手も自分のこととして考え始めるきっかけに使えるコミュニケーションツールなのです。
 あるいは、松下幸之助氏の質問より、もっと直截な質問をする方法もあります。
 例えば、「君はどうしたい?」「君だったらどうする?」という質問です。最初は、「え、どうするのか指示してください。」という動揺が生じますが、「いや、君に任せたのだから、任された以上、自分で考えて、私に提案してほしい。」と説明します。
 このような質問も、ここでの話と同様、部下の主体性を導き出すツールとして使えますが、そのほかにも、社内での打ち合わせで、他部門の担当者に話を聞く場合にも使えるツールです。
 ぜひ、試してください。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として、従業員の能力を高めることの重要性はもちろんのことです。この松下幸之助氏の言葉も、直接は、優秀な従業員をいかに育てるのか、という点を強調しています。
 けれども、それにもまして重要なのは、管理職者の能力です。
 管理職者の役割の重要性は、何度か検討しているところですが、経営者から相当の権限の委譲を受け、会社を組織として(個人プレーの集合としてではなく)機能させるためには、管理職者の能力が不可欠です。管理職者の能力としては、当然のことながら、本来業務を指示し、リードし、成果を出すことが主要な内容ですが、それだけにとどまらず、従業員を育てることも、中長期的に会社を強くするうえで重要です。
 ですから、ここで松下幸之助氏は、従業員教育の必要性ではなく、その具体的な方法を説明し、管理職者を教育しようとしているのです。

3.おわりに
 さらに、任せる場合の普段からの接し方も重要です。
 例えば、「背中を見る」(背中を見せる、ではないことに注意してください。7/9の#145、7/11の#147等参照。)ことは、1つの接し方になりますので、そちらも検討してみてください。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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