見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#140

7/4 正しい意志決定

~速やかに正しい意志決定を行う。それは場あたり的なものではいけない。~

 意志決定はできるだけ速やかに行うことが大事だが、ただ早く決めればいいというものではない。その決定が正しいものでなくてはならない。即断して、誤った意志決定をしてしまったのでは何にもならない。
 それでは、どうしたら正しい意志決定ができるのか。これは実際は非常に難しい問題だと思う。神様でもない限り、常に正しい意志決定を下すということは不可能だといってもよいだろう。
 けれども、やはりできるだけ速やかに、できるだけ誤りのない意志決定を行っていかなくては、人を使う立場としての職責は果たせない。そこで、自分の体験なり見識に基づきつつ、その時々の情勢を勘案して総合的に決定していくわけである。ただ、その場合に大事なことは、根底に一つの人生観、事業観、社会観というものをもつことではないかと思う。つまり正しい人生観、正しい社会観といったものを常に自ら養い高めつつ、それに基づいて意志決定をしていくということである。そういうものでないと、ともすれば場あたり的なものになってしまうし、また部下を十分納得させることができないおそれもある。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が逆ですが、まず、ガバナンス上の問題を検討します。
 ここで、松下幸之助氏のコメントに含まれるポイントを拾い上げてみましょう。①意志決定はリーダーの仕事、②意志決定は速くて正しい方が良い、③常に正しい意志決定は、不可能、④場当たり的な意志決定や、部下を納得させられない意志決定は駄目、⑤意志決定は、自分の体験、見識に、時々の情勢を勘案して総合判断する、⑥意志決定の根底に人生観や社会観を求め、それを、自ら養い高めるべきである、ということになるでしょう。
 簡単に補足説明しましょう。
 まず、①③です。投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者のミッションは「適切に」「儲ける」ことです。儲けるためには、リスクを取ることが必要です(リスクを取らずに儲けられないのは、古今東西の共通の認識です)。すなわち、不確実な将来でリスクを取らなければ、ミッションをやり遂げることはできませんが、そのためのツールが会社です。会社を使って、経営者としてのミッションを遂行しますので、経営に関する意志決定の責任は、経営者が負うのです。つまり、意志決定はリーダーの仕事なのです。
 次に、②ですが、会社経営は同業他社との競争ですから、速くて正しい方が良いのは当然のことです。
 次に、⑤⑥ですが、経営判断に際して人生観や社会観を求める点です。
 松下幸之助氏は、これを、②早くて正しい意志決定をするためのツールと位置付けているようですが、他の位置付けも可能です。すなわち、会社が社会で「儲ける」ためには、会社が社会に受け入れられなければなりません。最近の度重なる品質偽装で、多くのメーカーが経営の危機に瀕するなど、社会が会社を受け入れないとどうなるのか、非常に身につまされる状況です。しかも、社会に媚びるだけでなく、むしろ社会をリードするような運動や情報発信が行われるべきであり、コンプライアンス、企業の社会的責任、CSR、ノブリスオブリージュなどの言葉で表現される活動が求められるのです。
 会社経営者に、社会の動きを予測するだけでなく、より好ましい方向へリードすることまで求められるということになれば、会社経営者が人間や社会のあるべき姿について、常に勉強しろ、というアドバイスの意味も理解しやすくなるはずです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここでは、④について考えます。
 すなわち、経営者は従業員をリードするからこそリーダーであり、経営の責任者なのです。そのためには、従業員がついてこなければならず、最近様々な場面で用いられる「ブレない」ことや、「納得感」あることが重要と指摘しています。
 このことは、特に、経営者が従業員に対し、命令に従うことだけでなく、自主的で主体的な活動も求める場合(例えば、7/3の#139)に、より一層重要になります。経営者の示す方針がいつもブレていたり、納得できないものであれば、従業員は何を任されたか理解できず、あるいは進んでやりたいと思わず、せっかく従業員に権限を一部委譲しても、それが十分生かされない状態になってしまいます。
 そして、上記⑤⑥のように経営者自身が、人格を磨き、社会性を磨き、判断力を磨くことは、この④に貢献し、会社組織の活力を高めることにもつながるのです。

3.おわりに
 経営者の立場や責任の内容から、経営者が常に人格を磨き、社会性を磨き、判断力を磨くことの、ガバナンス上の意味と、内部統制上の意味を検討しました。
 松下幸之助氏のコメントは、経営者の立場を中心に見ると、とても多岐に亘り、とても盛り沢山となりますが、このように統合して把握することの重要性も、お判りいただけたと思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?