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労働判例を読む#483

※ 司法試験考査委員(労働法)

今日の労働判例
【日本通運(川崎・雇止め)事件】(東京高判R4.9.14労判1281.14)

 この事案は、無期転換(5年超過)直前に雇止めされた有期契約者Xが、会社Yに対して、雇止めが無効であると主張した事案です。1審2審いずれも、Xの請求を否定しました。
 同じ会社の、同様の雇止めに関し、同様の判断(原告の請求を否定)をした高裁判決(「日本通運事件」東京高判R4.11.1労判1281.5)が参考になりますので、ここではその参考判例と対比しながら検討しましょう。

1.判断構造
 2審は、1審の判断構造をより明確にしました。Xが、控訴の際、議論をより掘り下げたためですが、この結果、参考判例と同様の論点について、この裁判所の判断がより明確になりました。この裁判所でだけ議論された論点もありますが、ここでは、参考判例と同じ論点に絞って検討します。
① 自由な意思
 参考判例の1審は、「更新しない」という文言の入った契約にサインしたことが、合意するかしないか、という二者択一であることなどから、「自由な意思」に基づくものではない、したがって、「自由な意思」に基づかない、このサインによって更新拒絶できなくなるわけではない、と判断しました。これに対して2審は、「自由な意思」に言及しておらず、「自由な意思」が問題にならないと判断したようにも見えます。
 他方本事案では、契約当初から5年が上限であることが明示されていた点を重視して、「自由な意思」が必要とされない、と判断しました。
 両者を通してみると、最初から不更新条項がある場合には「自由な意思」の問題ではない、ということが明確に示されたほかは、どのような場合に「自由な意思」が必要になるのか、明確に判断されていない、ということができるでしょう。
② 労契法19条
 参考判例は、①の自由な意思を否定したものの、労契法19条1号2号の「更新の期待」については、Xの雇われた担当業務が無くなる可能性があり、それが無くなれば更新がない、ということを当初から説明されていたこと、そしてそれが実際にそのとおりになったこと、などから、「更新の期待」が存在しない、したがって、更新拒絶が可能である、と判断しました。
 本事案の2審は、この論点について、1審判決の判断を維持していますが、ポイントは参考判例と同様です。すなわち、Xの勤務する視点の閉鎖の可能性が当初から説明されていて、実際に閉鎖されることになったこと、など(例えば、当初から上限が5年とされていた点も指摘されています)から、「更新の期待」を否定しました。

2.本判決と参考判例の比較
 この比較から、②「更新の期待」については、時限的な採用であることを、その背景から説明されていて、実際にそのような事態になったことが、重要な要素であり、共通する要素であることがわかります。時限的な採用の場合、なぜ会社の事情を説明するのか、という疑問を持つ人がいるかもしれませんが、自分の置かれた状況を理解してもらうことは、トラブルを避けるだけでなく、法的な観点からも意味があるのです。
 他方、①「自由な意思」については、この判例で、適用されない場合のあること(最初から不更新条項があった場合)が明示されたほかは、途中から不更新条項が追加された場合にどうなるのか、不明な状況にある、と考えられます。

3.実務上のポイント
 時限的な雇用で、実際に雇止めをするために考慮すべきポイントが、②「更新の期待」であることは明らかですが、①「自由な意思」については、どのような場合に問題になるのかも含め、はっきりとしない状況のままとなりました。少なくとも、当初から不更新条項が入っている場合には問題にならないような判断が、本事案の2審で示されたのですが、途中から不更新条項が入る場合に、本当に「自由な意思」が必要とされないのか、まだはっきりしていない状況、と評価できるでしょう。たしかに、本事案に関しては、2審の判断が1審の判断を覆していますが、見方を変えると、「自由な意思」が必要とする裁判官と、これを不要とする裁判官がいる、ということでもあります。
 今後の動向が注目されるポイントでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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