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松下幸之助と『経営の技法』#76

5/1の金言
 色々な工夫、努力をして、自分の仕事を、夢に見るぐらい愛するようになりたい。

5/1の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 何らかの配慮があって与えられた仕事の場合、そのことを素直に理解し、なるほどそういうものかと自分なりに納得して、一年間それにあたっていくことが大切だ。
 その上で、いろいろ工夫して興味が湧くように考えていけば、それでも性に合わないこともあるかもしれないが、ほとんどの場合、そうした工夫、努力の中から、仕事に対する興味は生まれてくる。
 日頃からそのような心構えで仕事をしていても、時には、自分はどの程度力強くそういう努力をしているか、改めて自問自答してみることが必要だ。そしてついには自分の仕事を夢に見るほどに愛する、というような心境にまでなりたいものだと思います。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、仕事を与えることが、単に業務分担を目的にするのではなく、教育効果もあることを前提にしています。松下幸之助氏は、直接は仕事を与えられる従業員の側に重点を置いて話をしていますが、仕事を与える会社の側にも、考えるべき問題がありますので、それぞれについて考えましょう。
 まず従業員の側です。
 近時は、従業員の専門性やキャリアは、従業員自身が考え、主体的に自ら積み上げていく、そのためには上手に転職も活用し、自分のキャリアを設計していく、というような在り方が注目されています。
 このような在り方から見ると、会社から与えられた仕事でまずは頑張る、という発想は、主体性が無く、問題があるように見えます。
 たしかに、会社の与える仕事が全てその従業員のためになるわけではなく、盲目的に会社に従うのであれば問題でしょう。松下幸之助氏も、別の機会に、従業員が盲目的に会社に従う姿勢に苦言を呈しています。
 けれども、会社に従業員を育てようという意欲があれば、キャリアにとって有益な仕事を与えてくれる可能性が高まります。経験が浅い従業員には見えないものが、会社の先輩たちに見えているからこそ与えられた仕事は、従業員本人にとって当初は違和感があるでしょうが、経験上、役に立つはずです。松下幸之助氏も、ここで「理解」「納得」して受け入れるように話しています。この点で、積極的に自分のキャリアを積む方法と、むしろ基本的な方向性は同じであると評価できるのです。
 次に、会社の側です。
 これは、これまで検討したことの裏返しの問題です。
 つまり、まずもって、従業員のキャリアを考えて、仕事の配転を考えるべきであること、しかも、本人の納得を得て、従業員が自分のキャリアを主体的に考えるようにすること、が重要になります。
 問題は、このように従業員のキャリア位に配慮した人事を行う意義です。
 そこにはいくつかの意義が見いだせますが、①従業員の主体性を育てることで、日ごろの業務でも従業員の主体的な取り組みを促し、リスクセンサー機能やボトムアップによる情報の収集に貢献できること、②従業員の成長を促し、会社全体の能力を高めること、③従業員の会社への帰属意識を高め、定着率を高め、会社の人材を維持確保すること、④それらが、会社の魅力を高め、社会的評価を高めること、等の効果が期待されます。
 すなわち、会社の財産は人であり、その人材を意識的に育て、強くしていかなければいけない、という経営の基本に繋がっていくのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者に求められる素養として、上記1で検討した問題を適切に取り扱えることが、重要なポイントとして挙げられます。そのような意欲と能力のある人材を経営者にすべきである、ということになります。
 さらにこれは、会社規模が大きくなるにしたがって難しくなります。
 それは、会社規模が大きくなるほど、求められる人材はより多様になっていくため、従業員の主体性や意欲を高めるために必要な対策も広くなっていくからです。しかも、全ての従業員を経営者自身が把握できなくなっていきますから、当然、これらの施策を部下にやらせることになります。
 多くの施策が人事担当者に行わせることになりますが、実際に仕事を与え、仕事を通して学ばせるのは現場を預かるリーダーや中間管理職であり、経営上の施策と人事上の施策を一致させなければなりません。経営者には、会社全体の施策を矛盾なく束ね、その方向性を一致させ、組織自身がエネルギーを発揮して動き出せるようにリードし、運転していくことが必要になるのです。

3.おわりに
 仕事が夢に出てくる状態について、私の場合、むしろ仕事でうなされ、眠りも浅く、起きたらぐったりと疲れてしまうような、辛い印象の方が強いですが、松下幸之助氏は、仕事の夢は楽しい夢のようです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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