松下幸之助と『経営の技法』#27

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.3/13の金言
 いいと思うことは、どんどん提案する。考えていけば、いくらでも考えることはある。

2.3/13の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。短いので、全文を掲載しましょう。
 皆さんはこの会社に入った以上は、もちろん上長なり先輩に対する礼儀、これはどこまでも必要ですが、社員としての責任感に立って、いいと思うことは、どんどん提案してもらいたいと思います。
 考えていけば、一つの事柄について、いくらでも考えることがあると思います。考えなかったら、30年たっても40年たってもわからない、ということです。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、新入社員に話しかけていますので、会社組織のあり方、特に従業員の意識や社風、企業文化等に関する問題意識が読み取れます。
 すなわち、リスク管理だけでなく、経営学の観点からも、企業文化や従業員の意識付けは、重要なツールと位置付けられています。
 そして、問題はその中身です。
 氏は、新入社員に対しても、積極的に意見を言うことを求めています。
 これは、第1に、従業員全員がリスクセンサー機能を担うべきである、という組織論です。会社を人体に例えた場合、体の表面に広く神経が巡らされていることが、人体を外部のリスクから守っています。体の表面の神経は、熱さや痛さなど、限られた情報しか反応せず、伝達しませんが、それで十分です。同様に、全従業員が、自分の業務に関する異常などに気付かなければ、会社は重要なリスクの見落としをしかねないのです。
 第2に、リスクコントロール機能です。リスクコントロール機能は、例えば筋肉を動かして回避行動を取るなど、異常を感じた部分以外の部位の協力が必要ですから、かなりの権限やリーダーシップが必要になりますが、さすがに新入社員にそこまで求めていませんが、提案された上長がこれを受け止めるべきことになります。
 第3に、経営の観点です。これは、特にリスクセンサー機能の表裏の関係にあります。すなわち、多くの従業員がビジネスのネタを探すと、実際にビジネスのネタが見つかる可能性がそれだけ高まることが期待されるのです。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家としては、若手従業員の教育にも熱心な経営者を選ぶか、経営者に対しそのように働きかけることが、重要なポイントになる、と評価できます。これは、特に企業の永続性を重視する場合に、重要な指標になります。

5.おわりに
 この新入社員へのメッセージは、同時に、若手から報告を受け、意見を言われる上司や先輩に対するメッセージでもあります。若手が先輩や上司に報告や意見をする際、社長自身に言われたことだ、と言えることで、先輩や上司は若手を蔑ろにできなくなるからです。もちろん、若手だけを依怙贔屓するわけではなく、多くの人達の意見を聞くように心がけることが求められています。
 これは、若手と直接接触する機会の多い世代は、仕事に自信を持ち始めた世代と思われますので、若手の話を聞くように心がけさせることによって、過信を戒めることにもつながります。
 さらに、氏は「考える」ことに言及しています。すなわち、若手の教育も考えた上での発言なのです。
 どう思いますか?


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