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松下幸之助と『経営の技法』#62

4/17の金言
 今やらねばいつできるという熱意。自分がやらねば誰がやるという執念。

4/17の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 平櫛田中(ひらくしでんちゅう)という彫刻家との思い出の中で、印象的なものは、100歳を超えてもなお50年分の木彫用木材を積んで作品創作への意欲を持ち続けていたこと、「60、70は鼻たれ小僧、男盛りは100からですよ、だからわしもこれからですよ」という発言、「今やらねばいつできる、俺がやらねば誰がやる」という口癖。
 やはり本当に自分の芸術を完成させるには、あと50年間は木を彫り続けなければならないのだという執念とも言える強い思い、熱意をもっておられることを、改めて感じた。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 1つ目はリーダー論です。
 これは、松下幸之助氏の言葉どおり、個人を対象に考えた場合の教訓であり、物事をやり遂げるために熱意が重要である、という意味です。リーダーたるもの、他人をリードすることが重要ですので、持続的で他人を巻き込むことができる熱意が不可欠であることは、特に指摘するまでもないことでしょう。
 実際には、どのような熱意を、どのように維持し、どのように発揮していくのか、が問題になります。それはリーダーの人格や個性にも関わってくる問題ですが、リーダーとして求められる素養に応じた熱意、すなわち彫刻家であれば彫刻への熱意、ということが出発点になります。
 2つ目は組織論です。
 これは、経営者の意図するとおりに組織が動くべきである、そのためにどのような組織にするのか、という問題意識から、組織の在り方をかが得る発想です。
 まず、会社組織自身の意欲や熱意の重要性ですが、経営者個人の熱意を受け、それに引っ張られるだけでなく、自ら発熱し、会社組織自身が一つの生命体のように活動するようになれば、それが適切な方向に向かって適切にコントロールされている限り、生産性が高くなり、経営者個人の力量を超えた存在になります。経営者個人の手の届く大きさを超えるためには、活動のための熱源も、経営者個人を越えなければならないのです。
 次に、誰が発熱するのか、という問題ですが、これは言うまでもなく全従業員でしょう。熱意のある従業員が増えるほど、組織全体の活気があがり、組織自体の熱量も上がります。そのためには、従業員同士の競争など、組織内部での人間関係から発せられる熱意もあるでしょうが、社会に認められたい、社会に貢献したい、などの、組織を超えた方向での熱意もあります。
 前者の方が、組織の管理上の枠組みの中で発生するためにコントロールしやすく、さらにこれを増幅したり、コントロールしたりするためのツールとして、「派閥」のような仕組みも発展してきました。大きな会社になると、従業員各自のバラバラな熱意を束ねる作業が困難になるため、従業員の熱意のベクトルを合わせるための人事上のツールが高度化せざるを得ない面があるのですが、本来手段であるはずの人事が目的化する場合も生じてしまい、ときには「派閥」などの内部抗争で組織自体を破壊させてしまう事態も生じます。制御しやすいはずの従業員の熱意が、限界を超える場合もあるのです。
 そこで、後者のように各従業員の熱意を、会社の外に向けた意欲の中から発生させたい、と考えるのは当然の流れになります。ベンチャーやスタートアップはこれが特に顕著な例です。極端な場合には全員が共同経営者であり、全員が社会に向けた熱意や意欲を持っています。その熱意を束ねる方法も、組織が小さいことから非常にシンプルで、会社の利益をその都度話し合って配分する方法もあり得ます。
 このようにして、両極端な場合を比較してみると、全従業員に火をつける方法には、組織内の競争などによって生じる面と、社会と個人の関係から生じる面の両方があることがわかります。前者の方が、どこか陰湿な印象を伴いますが、組織が大きくなるほど、自分自身では社会への参加意欲の低い従業員が増えてくることから、ベクトルを合わせてコントロールすることと合わせて、社内競争などの人事制度を活用して火をつける、という要素が、どうしても必要になります。必要な制度なのであれば、それを避けるのではなく上手に活用することが重要になりますので、CSRなどのように社会との関係を従業員にも常に意識させたり、従業員にむしろ早期の独立を促して、自分自身が経営者になる意識を持たせるなどして、人事制度自体を目的化しないようにする工夫が考えられるところです。
 全従業員に火をつけることができれば、組織全体の熱量が高くなることは、誰でも理解できますが、いかに火をつけ、いかにコントロールするのか、という方法を考えなければなりません。人事制度を、従業員に火をつけ、コントロールするツールとして捉えることも、必要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者には、従業員に火をつけ、コントロールする能力が必要である、ということが理解できます。自分の言うことを聞かせるのが上手で、統制力があっても、それだけだと、組織は経営者の熱量で動ける程度の大きさにしか育たないからです。
 かといって、従業員を焚きつけるだけで、統制力がなければ、組織は空中分解します。エネルギーをコントロールできるからこそ、発電所が電気を発生させますので、組織をコントロールする統制力が、会社組織を束ねて、社会の中で活動させるために、不可欠なのです。

3.おわりに
 組織のエネルギー源がどこにあり、それがどのようにコントロールされているのか、という発想は、特に活気がない組織の場合、有効です。会社全体の問題だけでなく、例えば特定の部門についても問題になります。
 そこでは、どうすれば従業員のやる気が出るか、が問題になりますが、ここで検討したように、人事制度の構造的な問題にも関わりますので、各従業員の熱源がどこにあるのか、という分析もしてみてください。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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