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松下幸之助と『経営の技法』#137

7/1 最高の熱意を

~知識や才能で負けたとしても、その仕事への熱意だけは負けてはならない。~

 私はよく、各部署の責任者の立場にある人に対して、こういうことを言ってきた。
「君の部にはずいぶんいろいろな仕事がある。そのたくさんある仕事を、いかに君が部長だからといって、神様ではないのだから、何もかもできるわけではない。ある仕事については部下の人のほうが才能があるということもあるだろう。こういう面では、彼のほうがわしより偉いなという場合もあるに違いない。そういうことがたくさんあると思う。だから、君が責任者であり、指導者ではあるが、個々の面、専門的なことについては、指導できないことが多い。けれども、指導者の立場にあるのだから、指導もしなくてはならない。管理もしなくてはならない。
 そういう場合、何がいちばん大事かということだ。それは、君の部の経営というものについて、誰よりも熱心であるということだ。部を経営する熱意においては、誰にも負けてはならない。知識、才能については負けてもいい。それはすぐれた人がたくさんいるだろうし、負けてもいい。だが、この仕事をやっていこうという熱意だけは君が最高でなくてはならない。そうであれば、皆が働いてくれるだろう」
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで松下幸之助氏は、管理職者に対し、①全て自分でやろうとせずに任せることは任せるように、②そのコツは、部の経営への熱意で誰にも負けないことである、と話しています。
 このうち①は、組織を大きくするうえで必要なことです。
 もちろん、全てリーダーの指示や了解がなければだめだ、というワンマン型のモデルもあり、その場合には組織を一丸とまとめ上げて活動させやすい、というメリットもあります。けれども、それではリーダーのキャパシティーを超えた組織にすることができません。そこで、組織を一定程度以上大きくするためには、部下や従業員に仕事を任せていことが必要となってくるのです。
 この点は、これまでも繰り返し検討してきたことですので、この程度にとどめます。
 次に②は、任せても経営できるようにするためのヒントであり、アドバイスであります。
 すなわち、リーダーとして見た場合に、人をリードするだけの熱意が必要であることは当然に理解できます。さらに、ここでは部下や従業員に任せることと関連して熱意が論じられている点が注目されます。すなわち、任せた側の管理職者の熱意があれば、任された部下や従業員が適切に仕事をする、と考えられるのです。
 これは、熱意でプレッシャーを与える、という面があるかもしれませんが、特に重要なのは、管理職者の熱意が部下や従業員のモチベーションに繋がる、という面でしょう。
 このことを理解するために、「背中」という言葉を考えてみます。
 すなわち、「背中」という言葉を、マネージメントのツールとして使う場合、「親父の背中」と言われるように、自分の背中を見せて教育する、という面と、他に、任せた部下や従業員の「背中」を見ている、という面があります。後者は、余計な口出しや指示はしないが、放任するわけでもなく、例えば任せた業務について何かいい仕事をした場合には、それを真っ先に気づいて褒める、等のサポートをすることで、部下や従業員に「背中」を見られている、と実感させるのです。このように、過干渉ではないが放任でもない距離感を実感させることができれば、任された業務についてモチベーションが出てくるのです。
 そして、このように過干渉でも放任でもない距離感を常に維持し、従業員をサポートし続けることは、注意力や好奇心を切らさずに持続させることが必要であり、そのために、マネージャーとしての熱意が必要となるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、全く同じことが経営者の資質として注目すべきポイントとなります。すなわち、任せることのできる能力が重要なのです。
 もちろん、会社のステージに応じて必要となる資質が変化することは考えられます。新しい事業に取り組むべきステージでは、むしろ経営者が全てを判断し、会社が一丸となるようにリードした方が良いかもしれません。他方、それでは経営者のキャパシティーを超えて事業を大きくすることができませんから、事業が経営者のキャパシティーを超えた規模になってきた場合には、任せられる経営者に取り換えるか、経営者にそのような意識変革を求めるかする必要があるのです。

3.おわりに
 ところで、松下幸之助氏の説明の仕方は、任せることを恐れている管理職者に、熱意があれば「負けない」という、まるで勝負ごとのような印象を与えますが、本当に勝負事として捉えてしまうと、部下や従業員に与えるプレシャーのほうが、モチベーションよりも大きくなり、かえって窮屈に受け止められかねません。熱意をもって、部下や従業員のモチベーションを上げるように取り組むよう、フォローが必要でしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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