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経営の技法 #16

2-5 内部通報制度
 一部の会社では、実際に機能している事例もあると聞くが、多くの日本の会社では、導入したものの機能していないと言われる。近時の不祥事の多くは、内部通報制度が機能すれば、問題が小さいうちに対応できたように思われ、実効性ある内部通報制度の構築と運用が望まれる。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、内部通報制度が機能していなかった事例の原因分析と再発防止策の検討を通して、内部通報制度が機能するためのポイントを検討していますが、ここでは、組織論上の問題と、機能活性化のためのヒントが中心となっています。
 まず、組織論ですが、内部通報制度を内部統制(下の正三角形)上の制度としてではなく、ガバナンス(上の逆三角形)上の制度と位置付けるべきである、と論じられています。これは、内部統制(下の正三角形)上の制度と位置付けられる限り、通報を受ける者を誰にしようとも、結局、社長をトップとする指揮命令体制の中で対応すべきことになり、通報を受ける者やそれを受けて対応する者の自己保身・隠蔽の可能性が高くなるのです。
 そこで、本来であれば、内部統制(下の正三角形)を機能させることは経営者の責任であり、投資家はそれに関知しないはずですが、緊急の安全弁として例外的に投資家(又はこれに代わる者)が乗り出す機会として設計すべきなのです。
 さらに、機能活性化のためのヒントとして、報奨制度とリーニエンシー制度が紹介されています。

2.ガバナンス(上の逆三角形)上の制度とする場合
 内部通報制度をガバナンス上の制度と位置付ける場合には、通報を受け、対応する者は、社外取締役と同様、株主のために行動すべきことになります。実際に株主自身が積極的に行動することは期待できませんので、社外取締役が実際に機能するために必要なことが、ここでも必要となってきます。
 そこでの議論(「社外取締役」(同書2-2)、本ブログ#13参照)でも明らかなとおり、そのためには経営陣が耳の痛い意見や事実を受け入れる度量や会社風土が重要となってくるのです。

3.おわりに
 他方、公益通報者保護法が適用されるべき内部通報制度が機能すれば、内部通報制度によらない外部告発などに対し、厳しく対応することが可能となります。
 改正の検討が始まっていますが、公益通報者保護法も会社の制度設計上活用できますので、改正の動向が注目されます。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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