労働判例を読む#284

【太平洋ディエムサービス事件】(大地判R2.3.27労判1238.93)
(2021/8/13初掲載)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、会社Yがシステム管理責任者Xを、その適格性を疑わせるいくつかのエピソードを理由に解雇した事案です。裁判所は解雇を無効としました。

1.無効理由
 Yは、Xの適格性を否定するエピソードとして、①睡眠時無呼吸症候群による寝不足によって業務に差支えが生じていたこと、②個人情報管理に問題のあるクラウドサービスを利用しようとし、経営者から解約を命じられても十分対応しなかったこと、③システムトラブル等に十分対応できずに、責任逃れに終始し、社内システムを崩壊させたこと、を指摘します。
 けれども裁判所は、①②については、解雇を有効にするほどのものではないとしました。③も同様ですが、さらにXに対する不信感を募らせていた経営者が、Xからアクセス権限を取り上げるなど、Xが仕事をできない状況を作っていた面もあり、Xだけが一方的に悪いのではない、という事情も認定しています。

2.実務上のポイント
 解雇が無効とされる事案で時々見かけるのですが、鳴り物入りで入社した従業員がいつの間にか経営者から敵視されるようになり、排除されることがあります。期待が大きかっただけに、思ったほどでない場合に「給料泥棒」と思ってしまうのでしょうか。会社との相性が悪いからでしょうか。
 即戦力を期待する中途採用者に関するトラブルは、労働判例でも定期的に見かけます。ある環境で成果を上げても、違う環境では力を発揮できない場合もあります。
 そのような問題を避けるために、採用の際に適性に特に注意するほか、試用期間を定めて従業員の適性を十分見極めるプロセスを設定するなどの対応も検討してください。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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