見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#146

7/10 人を育てるということ

~人を育てるとは、経営的な感覚をもって仕事ができる人を育てるということである。~

 大事なのは、思い切って仕事を任せ、自分の責任と権限において自主性をもった仕事ができるようにしていくことである。
 人を育てるというのは、結局、経営の分かる人、どんな小さな仕事でも経営的な感覚をもってできる人を育てることである。そのためには、何でもあれこれ命令してやらせるのではいけない。それでは言われたことしかしない人ばかりになってしまう。やはり仕事は思い切って任せることである。そうすることで、その人は自分でいろいろ考え、工夫するようになり、持てる力が十分発揮されて、それだけ成長もしてくる。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 人を育てること、しかも経営者感覚をもった従業員を育てること、の重要性は、松下幸之助氏が繰り返し説いていることです。そこで、繰り返しになりますが、このような育成の重要性を確認しましょう。
 まず、会社経営のモデルとの関係です。
 たしかに、会社経営のモデルによっては、従業員の自主性は重要でありません。突破力やリーダーシップのある経営者が会社の全てを把握し、全てについて自ら判断するようなモデルでは、従業員に求められる資質は、忠実に指示をやり遂げる能力です。曖昧で判断に迷うときには、経営者の指示を仰ぐことが重要で、経営者ぶって自分勝手に判断されては困ります。なぜなら、このモデルでは組織の一体性が重要であり、一丸となって乱れずに行動するからこそ、突破力や突進力が発生するのです。このモデルは、いわゆるワンマン会社に見られるだけでなく、新規事業や事業の転換、事業再生などの時や、ニッチな市場で限られた顧客だけを相手にするような場合に見られるもので、このモデル自体が悪い、というわけではありません。
 けれども、このモデルでは、経営者のキャパシティーを超えた規模や質の仕事ができません。全て、経営者が判断しなければならないからです。
 このことから、従業員の自主性や経営者感覚を育てることのメリットや目的を考えましょう。
 1つ目は、組織の拡大です。
 いちいち経営者の判断を仰がなくても、責任もって的確に判断できる人材に、権限を委譲していくことができれば、司令塔が複数できることになりますので、会社の規模をそれだけ大きくすることができ、より手広くビジネスを展開できるようになります。
 つまり、経営者のキャパシティーを量的に超えることができるのです。
 2つ目は、多様性です。
 指示を忠実にやり遂げるだけでなく、自分で判断する領域が出てくれば、そこでは必然的に、それぞれの個性が出てきます。経営者個人では思いもよらない発想や行動もあるでしょう。その中には、会社をより強くできるものがあるかもしれません。さらに、社会の多様化に伴う市場のニーズの多様化により、会社の側も多様なニーズに対応できる必要がありますが、会社内で多様な発想ができることは、このような対応力を高めることにもつながります。
 つまり、経営者のキャパシティーを質的に超えることができるのです。
 3つ目は、サステナビリティ―です。
 経営者も人間であり、いつまでも仕事を続けることができません。ところが、予め後継者を育てておくことができれば、組織は事業を継続したままスムーズに経営者の交代が可能であり、会社はサステナビリティ―を獲得します。
 つまり、経営者のキャパシティーを時間的に超えることができるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、株主としてはどのような資質を経営者に求めるのかを決めなければなりませんが、その前提として、会社の求める経営モデルが、一体性を重視するのか、多様性を重視するのか、を決める必要があります。上記の通り、この二つのモデルでは、経営者に求められる資質も、まるっきり異なってくるからです。
 すなわち、一体性を重視する場合には、全ての部下に対し、的確に指示を与え、経営の一体性を高める強いリーダーシップです。他方、多様性を重視する場合には、松下幸之助氏の言葉のように、従業員の自主性や経営者感覚を育て、権限を委譲して判断や経営の一部を任せつつ、経営全体については自分が責任を持ち、バラバラにならないように一体性を維持できるような能力が必要となります。
 このように、経営者に求める資質と、会社経営の在り方の関係を十分理解して経営者を選ぶ必要があり、株主として会社に投資することは、簡単なことではないのです。

3.おわりに
 さらに、松下幸之助氏は、自主性や経営者感覚を育てる方法として、「思い切って任せる」ことである、と説いています。OJTであり、「獅子の子落とし」です。
 この点については、昨日7/9の#145で検討しました。そちらも併せてご覧ください。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?