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松下幸之助と『経営の技法』#167

7/31 仕事は1人ではできない

~部下を頼り、力として、ともに仕事をする。1人で仕事はできないものである。~

 経営者とか指導者は、率先垂範して仕事をする責任があるが、それは基本的な心がまえの上での話である。仕事は1人ではできない。一度に四方八方へ目を配ることもできない。それゆえに部下の人たちに、それぞれの責任でそれぞれの立場で仕事をしてもらう必要があるのである。それには部下をいたわり、鞭撻し、彼らが仕事ができるように力を与えるという態度が経営者の立場にある人たちには望ましい。こういう経営者は、時に仕事の上で行きづまるようなことがあったとしても、必ずや部下から適切な助言を得ることができると思う。
 私は先だってある社長に会ったが、その社長は、学識もあり、体力も十分であり、時代感覚ももっているのであるが、それいにもかかわらず、会社は比較的うまくいっていないのである。その社長は自分の力のみで判断し、仕事をするという人であったのである。これに反して、一見田舎者のように、どこかボーっとしている社長のいる会社があるが、このほうは経営がうまくいっているそうである。まことに面白いものだ。これは部下を頼り、部下を力としてともに仕事をしていくという態度に、衆知が生きて仕事がうまくゆくのであろうと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 これは、松下幸之助氏が一貫して説いているビジネスモデルです。
 すなわち、ワンマン会社やベンチャー企業に多く見られる経営者は、ここで引き合いにされている経営者と同様、自分が会社の全てや従業員の全てについて把握し、コントロールしようとします。そのことによって組織の一体性が確保され、突破力が得られます。
 けれども、この経営モデルでは、経営者のキャパシティーを超えることができません。7/10の#146等で検討したように、従業員の自主性を重視し、多様性を尊重し、部下に権限移譲をしていくことによって、経営者のキャパシティーにより定められる限界(量的な限界、質的な限界、時間的な限界)を超えることが可能になるのです。つまり、自主性を重視するモデルであり、従業員の多様性を尊重する経営モデルなのです。
 そして、そのためには、経営者が従業員を上手に叱り(7/13の#149)、あるいは経営者が従業員たちの裏方になって部下のための環境整備に徹する(7/23の#159、7/24の#160)等、従業員を育てるという意識と、育てるための様々な工夫が重要なのです。
 まずは、従業員に仕事を任せていくことが重要なのですが、松下幸之助氏に言わせれば、そのためには、自分自身が優秀すぎるよりは、凡庸で頼りないくらいの方がちょうどよい、というのです。
 
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、わざわざ頼りない人を経営者に選ぶ必要もありません。優秀な人物であり、しかも部下を育てられる人物である方が、通常、好ましいからです。それは、経営者の仕事は、部下を育てるだけでなく、むしろ本業としては、会社を束ねてリードし、重大な経営問題について責任もって決断する、という仕事があり、こちらの本業をこなせなければ意味がないからです。
 このように、決断やリーダーシップを果たしつつ、逆に経営者として部下を頼りにし、自主性を育てていくために経営者自身が従業員に教えを請う(7/21の#157)等のツールを、上手に使いこなせる器用さが、必要かもしれません。

3.おわりに
 さらに、「衆知」が生きることも、従業員の自主性を尊重するモデルのメリットとして指摘されています。
 この「衆知」は、「衆議独裁」に通じる重要なツールで、7/2の#138等で検討しているほか、『経営の技法』でも検討されています。
 経営者がリスクを取って決断するうえで、とても有効なツールですので、併せて検討してください。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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