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松下幸之助と『経営の技法』#135

6/29 勝ち方

~勝負では、勝ち方、負け方が問題となる。いかに正しい方法で成果を上げるか。~

 いかに強い力士でも、その勝ち方が正々堂々としていなかったら、ファンは失望するし、人気も去る。つまり、勝負であるからには勝たなければならないが、どんな汚いやり方でも勝ちさえすればいいんだということでは、本当の勝負とはいえないし、立派な力士ともいえない。勝負というものには、勝ち負けのほかに、勝ち方、負け方というその内容が大きな問題となるのである。
 事業の経営においても、これと全く同じこと。その事業が、どんなに大きくとも、また小さくとも、それが事業である限り何らかの成果をあげなければならず、そのためにみんなが懸命な努力を続けるわけであるけれども、ただ成果をあげさえすればいいんだというわけで、他の迷惑も顧みず、しゃにむに進むということであれば、その事業は社会的に何らの存在意義ももたないことになる。だから、事業の場合も、やっぱりその成果の内容――つまり、いかに正しい方法で成果を上げるかということが、大きな問題になるわけである。難しいことかもしれないが、世の中の人々が、みんなともどもに繁栄してゆくためには、この難しいことに、やはり成功しなければならないと思うのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が逆ですが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、株主が経営者に託した事柄、逆にいうと、経営者が株主から与えられたミッションを確認します。
 そのうち、誰でもすぐに理解できることは「儲ける」ことです。株主にとって、会社に出資し、経営者に経営を託すのは、それが投資だからです。
 けれども、どのような手段を用いても良い、というわけではありません。松下幸之助氏も、この点を明確に指摘しています。氏は、これを勝負のあり方、という「矜持」のような観点から解説を始めていますが、同じことを別の例えで説明すると、手段を選ばずに儲ければ良いのであれば、それは暴力団やマフィアと同じです。
 それでは、社会に受け入れられなくなってしまう(このことは、氏も指摘しています)ので、いずれ会社は収益を上げられなくなります。このことは、近時では、様々な会社がひき起こした品質偽装問題を想像すれば容易に理解できます。すなわち、(違法というレベルでないものも含まれますが)社会を欺いてビジネスを行っていた会社の偽装が暴かれた結果、経営危機に瀕してしまった会社がいくつもあるのです。
 このように見ると、経営者が与えられたミッションは、単に「儲ける」のではなく、「適切に」「儲ける」であるということがわかります。投資した事業が社会に受け入れられ、継続的永続的に社会から収益を受け続けることが期待されているからです(そうでなければ、会社や事業に投資せず、短期的な投機対象の売買による収益を目指せばよい)。
 そのために経営者がすべきことは、会社が社会の一員であり、社会に受け入れてもらえるように、社会貢献をアピールすることです。
 これが、本来の意味の(つまり、「法令遵守」等の誤った狭い意味ではない)コンプライアンスであり、CSRであり、企業の社会的責任であり、ノブリスオブリージュです。松下幸之助氏は、このことを、「他の迷惑も顧みず、しゃにむに進む」ことは、「社会的に何らの存在意義もない」という言葉を使い、説明しています。
 このように、株主の方だけを向いて、儲けることだけを考えている経営者は、投資家の本来の期待に応えられません。企業が社会に受け入れられるような社会貢献を行うことも、経営者には必要なのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、事業が社会貢献になるような経営は「難しいこと」と評していますが、これを経営者一人の心意気に終わらせるのではなく、会社組織が一体となってこれを実現するためのツールにならなければなりません。経営者のミッションを果たすためのツールが、会社組織だからです。
 残念ながら、ここで引用されている範囲では、何も触れていませんが、他人を使うことが経営ですので、経営学で論じられ、経営者が実践している様々な手法を上手に組み合わせて、この「難しいこと」、すなわち事業で儲けながら社会にも貢献すること、を目指して会社経営を行うことになるのです。

3.おわりに
 経営に関する様々なノウハウやツールが議論されていますが、まずは、それを上図のように、ガバナンスに関する事柄(上の逆三角形)と、内部統制に関する事柄(下の正三角形)に分類整理すると便利です。
 今日の松下幸之助氏の言葉は、専らガバナンスに関することで、経営者の立場や役割りに関する事項ですが、他方、経営者がどのように従業員に働いてもらうか、という問題は、内部統制に関することになります。
 2つの三角形を常に思い描きながら勉強すると、氏の言葉の理解が一層深まるはずです。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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