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松下幸之助と『経営の技法』#126

6/20 金は潤滑油

~金は潤滑油であり、人間生活の向上という仕事の目的を実現するための道具である。~

 ただ食うだけでなくて、生活の一切が今日より明日はなおよくなる、そのために働かねばならないものだと思う。人間にはそういう一つの大きな役割がある。お互いに、物を製造する人も、それらを助成するのに関連した仕事をする人も、みんなそういうことを目的にしている。精神的にも物質的にも、今日よりも明日はよりよき生活をしよう、そのためには何を考えるかということである。
 そういうふうに考えてみると、金儲けをするということだけのために、ものを考えたらいけないわけだ。
 資本主義国家においては、目的はちっともかわらないけれども、それを各自の自由裁量において、しかも最も経済的に愉快にするために、資本主義経済というものがができている。だから資本なり金は、いわばその潤滑油みたいなものである。といって我々は潤滑油のみのために仕事をしてはいけない。目的のために仕事をして、その目的のためにする仕事を、さらに能率的にするために潤滑油を必要とするのである。金はどこまでも道具であって、目的は人間生活の向上にある。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 6/18(#124)には、金儲けは悪いことでなく、むしろ適切に儲けなければならない、と話していますが、今日の金言では、金が目的ではない、と話しています。松下幸之助氏は合理的な人なので、思い付きで矛盾した話をしているのではなく、両者は一貫した言葉として受け止める必要があります。
 すなわち、社会に貢献する事業を営むことで金儲けすることが求められているのです。
 この、社会に貢献する事業を、会社の内部統制から見た場合には、会社の企業理念のように位置付けられるなどして、従業員の行動規範となる面が考えられますが、同時に、従業員のプライドや誇りとして、仕事に取り組む動機付けやモチベーションとなる面も考えられます。つまり、人様に迷惑をかけて自分たちだけ金儲けしている、というのではなく、社会に貢献することで金儲けできている、という手応えのある方が、従業員のモチベーションに繋がるのです。
 金儲けは良いことだが、金が目的ではなく、生活の向上などの社会貢献が目的なのだ、自分たちはそのために仕事をしているのだ、というメッセージを内部統制に活用する場合には、これを規範として従業員を縛る方向だけでなく、逆に会社や従業員の存在意義を共有し、モチベーションやロイヤリティーを高める方向でも活用できるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、金儲けの目的が社会への貢献である、ということの意味を明確にしておく必要があります。
 これは、コンプライアンスやCSR、企業の社会的責任、等として論じられるもので、経営者に対する制約として論じられることが多いようですが、『経営の技法』では、これこそが経営者に与えられたミッションであると整理しています。
 すなわち、株主が経営者に資金を託し、経営を託しているのは、「儲ける」ためですが、そのために手段を選ばない、というわけではありません。何をやっても良いのであれば、それはマフィアや暴力団です。例えば品質偽装などで社会的に非難された会社が、業績を大幅に悪化させ、存亡の危機に瀕してしまった事態などが散見されるように、会社が社会に受け入れられてこそ、永続的に収益を上げられるのです。つまり、経営者は「適切に」「儲ける」ことが求められており、そのためには、単に最低限のルールを守るだけでなく、社会に評価してもらい、受け入れてもらえることが必要になってきます。
 このように見れば、会社が社会貢献を目的に事業を営むことは、経営者に与えられたミッションそのものと評価できるのです。

3.おわりに
 このように見れば、資本主義体制も、経済を発展させ、富を配分する社会的なツールと評価できます。資本主義の欠点や限界があることから、社会保障制度などが設けられていますが、資本主義の制度自身による富の適切な配分が機能するのであれば、その方が良いに決まっています。
 実際、近年の品質偽装に対する社会的な批判と、それによる経営危機を見れば、社会に受け入れられない企業は存続が難しくなり、社会貢献を考えない会社経営ができなくなってきている、と評価できそうです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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