見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#143

7/7 決断が決断を生む

~決断がなければ、なすべきことをなせない。決断してこそ進むべき方向が明らかになる。~

 問題が複雑な場合には、一つの決断を行えば、さらにまた次の決断を迫られ、そのあとも続いて決断すべきことが出てくるといったように、決断が決断を生むというような姿も出てくる。だから決断をすればそれで万事が終わり、といった簡単なものではないわけである。
 けれども、そうはいっても、初めに決断がなければ、何をしていいかわからないということにもなりかねない。決断があってはじめて、何をなすべきか、どういう方向へ歩んでいけばよいか、といったことが明らかとなるのである。だから、そういう点からいえば、決断というものは非常に大事であり、いかに正しい決断を行うかが、やはり極めて大切な問題といえるわけである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編・刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番は逆ですが、最初に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 最初に「決断」の意味を考えます。
 たしかに、新たなチャレンジを「しない」という「決断」もありますが、多くの場合、リスクを取ってチャレンジを「する」という「決断」になるでしょう。話を骨太にするために、ここではこのリスクを取ってチャレンジ「する」「決断」を、「決断」と位置付けます。
 次に、「決断」のガバナンス上の意味ですが、これは、一面で経営者の責任を伴う行為ですが、他面で経営者がやらなければならない「ミッション」です。
 なぜなら、投資家である株主達は、多額の資金と機会を経営者に「投資」します。これは経済活動であり、託された経営者は、「適切に」「儲ける」ことがミッションとなります。
 さて、「儲ける」ためには、リスクを取らなければなりません。リスクを取らずに儲けることができないことは、古今東西の常識です。
 このように見れば、経営者はリスクを取る決断をするのが仕事です。高度経済成長期の安全な時代に慣れ切った経営者の中には、経営者の仕事はリスクを避けることである、と勘違いしている人もいたようですし、現在も役人にはこのような感覚の人が大勢残っている、と言われます。
 松下幸之助氏の活躍した時代は、高度経済成長前からそこに突入していく時代でしょうが、そこで氏は、安定した経済環境の中で、わざわざリスクを取ることよりも、いかにリスクを取らずに無難に経済成長の流れに会社を乗せていくかということに重点を置いた経営者が増えていくのを見ていたはずです。その中で、経営者たるもの、リスクを取らなければならない、という基本中の「き」を強調したくなったのではないでしょうか。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここで、「決断」することで、また「決断」すべきことが出てくる、と言っている状況を考えてみましょう。これには、外的な要因に基づく場合もありますが、内部統制などの内的な要因に基づく場合もあるでしょう。
 これは、悪い意味ではなく、むしろ良い意味と考えられます。
 それは、PDCAやカイゼン、QC活動のように、自ら業務の内容や結果を見直す活動が機能しているからこそ、「決断」に伴う問題に気づき、それを克服するためにはさらなる「決断」(追加投資など)が必要と気づく、と考えられるのです。
 もちろん、最初の「決断」の際の検討不十分により、予測が甘く、当初想定していた投資額の数倍もかかってしまうような、追い金ばかりかかってしまうような事態もあります。そのような見通しの甘い「決断」は避けねばなりませんから、松下幸之助氏も「正しい決断」を説いています。
 けれども、見通しの甘い「決断」でなく、良い「決断」だからこそ、やってみて初めて、最初には気づかなかった問題に気づく、ということが考えられます。このような形で連鎖する「決断」は、甘い見通しによって連鎖する「決断」と明らかに異なるものなので、甘い見通しによって連鎖する「決断」を、本来の「決断」を避けるための口実に使うようなことがあっては、経営者としての役割を果たせないことになるのです。

3.おわりに
 数少ない登山経験の中で、特に印象に残っていることがあります。それは、途中、あそこが目指す頂上ではないか、と思う景色に何度も遭遇することです。近づいてみると、そこは尾根の一部が尖っているだけであって、本当の頂上はまだ遠くに見えるのです。
 このことから逆算すると、「決断」する場合、一回で終わると思わないで、ある程度余力を残した「決断」をしなければならない、ということになります。これは特に、慣れない登山のように、新しい分野を開拓するような場合にこそ重要です。
 単純に考えてみましょう。基礎となる技術の開発ができても、次にその製品化ができなければなりません。さらに、その製品が売れるように市場の開拓が必要です。最初の段階で精魂使い果たすわけにはいかないのです。
 字数の問題があり、この点を明確に述べていませんが、現実主義者にして合理主義者である松下幸之助氏のことですから、毎回の「決断」で全精力を注ぎ込め、等と言わないはずだと思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?