見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#223

9/25 赤字は許されない

~赤字はその企業の損失だけにとどまらず、社会的損失でもあるという自覚があるか。~

 企業が赤字となれば、これは単にその会社の損失というにとどまらず、社会的に見ても大いなる損失である。赤字を出したからといって、その企業が法的に罰せられることはないが、その企業は社会に対して、1つの過ちを犯したのだという厳しい自覚をもって然るべきだと考える。これは資本の多い大会社ほど厳しく要請されねばならない。特に公企業・独占企業的なものほど、適正利潤の検討には厳重であるべきだと思う。それは、こうした大会社ほど社会の金と人と物を使うことが多く、それだけ社会性が強いのだから、他の範とならねばならないからである。
 仮にある大会社が、その経営規模にふさわしい適正な利潤を着々とあげておれば、国庫にも莫大な収入があることになり、それによって国民に大きな福祉を与えることになる。逆にその大会社が赤字を出したとしたら、政府も放っておくわけにはいかない。実情調査に係官を派遣するだろうし、いろいろと援助もしなけばならない。これには多額の費用がかかるが、これはすべて国民の税金からだされるのである。差引き何と大きな国家的国民的損失であろう。こんなことは、企業の社会的責任、使命からすれば、本当は許されないことだ。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

画像1

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が逆ですが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 松下幸之助氏は、6/18の#124で、会社は儲けなければならない、会社を破産させた経営者にはもっと厳しくすべきである、と説いています。経営者が儲けなければならない理由として、そこでは、①最低限自分1人を養えなければ、道義を維持できない、②力ある人がそれ以上に金儲けできるようでなければ、繁栄国家になれず、貧困街道を走ることになる、という点が指摘されています。
 ここではさらに、経営者が儲けなければならない理由を追加して説明しています。
 すなわち、③特に大きな会社であるほど、収益を上げれば、それが税金として国庫を通し、国民の福祉に貢献すること、④逆に赤字になった場合に国家的なサポートを受けるなど、国家的社会的損失となること、が理由になるのです。
 このように、経営者は、国家や社会との関係で「儲ける」義務を負っています。
 そして、この「儲ける」というミッションは、経営者が資金や経営の機会を託された立場として、株主に対して負うミッションでもあります。
 儲けることは、道徳的に悪いことや恥ずべきことのように思われることが、今でも日本で時々ありますが、松下幸之助氏は、かなり昔から、そのような考え方が日本の繁栄を阻害するものである、と警告を鳴らしてきました。むしろ、「儲ける」ことが、自らのビジネスが有意義であり、社会に貢献したことの証明です。社会にとって無益であれば、誰もお金を出してまで買ってくれないからです。そして、「儲ける」ことによって、従業員や取引先にお金を配分することが可能になりますので、昔の三河商人の言葉の「三方良し」のような発想で、堂々と金儲けに邁進すれば良いのです。
 このように、株主との関係、国家や社会との関係で、経営者は「儲ける」ことがミッションとなります。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 このような経営者のミッションから見ると、会社は、そのミッションを達成するために経営者が活用すべきツールです。すなわち、会社のミッションも「儲ける」ことなのです。
 そうすると、会社の内部統制は、単にリスクを避けるためだけにあるのではなく、むしろ逆です。
 どういうことかと言うと、「儲ける」ということは、リスクを取ってチャレンジすることだからです。古今東西、リスクを取らないところに成功はありませんから、会社の内部統制も、リスクを取れるようにする体制にしなければなりません。すなわち、リスクに気づき(リスクセンサー機能)、取れないリスクは取らず、取るべきリスクは取れるようにコントロールします(リスクコントロール機能)。そのようにして組織的にリスク管理し、経営がリスクを取れるようにお膳立てをします。
 このように、経営者の「儲ける」というミッションを達成するために、適切なリスク管理ができる体制を作り上げることが、内部統制の問題であり、経営の問題なのです。

3.おわりに
 さすがの経営の神様である松下幸之助氏も、一部の人たちに評判が悪いのは、このように金儲けこそ正義、と信念を持って言い切る点でしょう。
 今でも、日本の一部野党勢力は、儲けている会社や経営者から金を取れ、と本気で主張していますが、政治家がそのようなことを本気で発言している国は、先進国の中では日本位なものです。特に欧米では、会社やお金持ちを虐めすぎると会社が海外に逃げ出してしまい、国内での雇用が減り、経済の活力が失われる、ということは、政治的な右も左も共有している常識です。選挙や政治の場で戦う場合には、どうやって会社やお金持ちからお金を取るか、ではなく、どうやって会社を優遇してどんどん投資してもらい、雇用を増やしてもらうか、という企業を活性化させる方向での政策を競争します。
 松下幸之助氏が、金儲けの足を引っ張る風潮を嘆いてから、一体何年経てば、そのような風潮がなくなるのでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

画像2



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?