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松下幸之助と『経営の技法』#72

4/27の金言
 結局は、お互いの誠心誠意である。話す言葉ににじみ出る気持ちである。

4/27の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。短いので、そのまま引用しましょう。
 皆さんはワイシャツ一枚買うのにも、大体において買いつけの店が心にあると思うのです。とりたてて理由はないのですが、そのことには立派な裏付けがあります。つまり、客である自分に満足を与えてくれているという感じが、好みの店を決めているのです。
 そういうことを考えてみますと、販売というものを成功させるためには、以下にすればお得意様に喜んでいただけ、どういう接し方をすればご満足願えるか、ということを考えることが何よりも大切だと思います。ですから、妙案奇策のあまりない販売の世界の中で特色を発揮するために、何が基本になるかというと、結局はお互いの誠心誠意です。そして話す言葉ににじみ出る気持ちが、何よりも大切だと思うのです。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 前提として、この説明の中で、何を目標にしているかというと、経営学で言われる「差別化」であり、その手法として、「誠心誠意」が紹介されています。販売の世界では妙案奇策があまりないから、というのがその理由です。
 ここまでは、個人の話ですが、これを組織の話にしましょう。会社の差別化です。
 会社が組織として、「誠心誠意」を実践する体制を作ろう、という視点になります。いくつかのポイントがあります。
 1つ目のポイントは、チームで対応する、という視点です。
 これは、大手衣料品店のセールスの技術として紹介されていますが、1人の客が店舗でスーツの品定めをしているとき、店員1人が対応するのではなく、お茶を出したり、決まった商品を畳んだりするのに、他の店員が関与し、複数人で対応する、等の方法です。1人で対応するよりも手厚くサービスされているように感じるだけでなく、次に来店したときに、同じ担当者が留守でも客をつなぎとめることができるからだ、と説明されます。これは、個人が1人で「誠心誠意」を示すよりも、チームプレーでより手厚い「誠心誠意」を示そう、という戦術です。
 2つ目のポイントは、客の気持ちを汲み取るシステムの構築です。
 これは、POSシステム(購買履歴の集積と分析)や、苦情対応システム(客からの意見や要望の集積と分析)が具体例であり、現在の大手小売業では当然のツールです。
 3つ目のポイントは、社風や社員教育、人事評価制度などです。
 結局、現場で実際に客と接する従業員1人1人のサービスの品質に行き着きますので、全従業員が心の底から「誠心誠意」を実践したくなるような現場作りが重要です。
 4つ目のポイントは、経営方針です。
 それぞれのポイントについても、様々な工夫の方法がありますから、ここで唯一絶対の方法を示すことなどできませんが、「誠心誠意」を組織的に実践する、という経営方針が明確でなければ、経営上考慮すべき様々な要素が優先される状況が生まれてきてしまい、いつの間にか「誠心誠意」が実践されない場面が増えていきます。ブレないためにも、経営の決断と、その方針の徹底(優先順位付け)が必要です。
 ここでは、個人の「誠心誠意」を組織の「誠心誠意」にするため、現場での個別対応のレベルから、一般的で抽象的なレベルに向けて話を広げてみました。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として、顧客対応の重要さを知っていることが当然の前提となりますが、それを上記のように組織化できる能力が必要となります。特に4つ目のポイントで経営方針として指摘したとおり、トップが率先して顧客対応力の向上に取り組まなければ、組織は一体となりませんから、経営者の意欲が重要です。

3.おわりに
 振り返ってみれば、もともと「内部統制」は、リスク管理だけで使われる言葉ではなく、むしろ、例えば人気だった店長の人柄やサービスを、全ての従業員が行えるように徹底することが、外からは見られない内部での教育やコントロールという意味で、「内部統制」本来の意味に近いはずです。「誠心誠意」の組織的な徹底は、この本来の意味の「内部統制」を具体化する作業なのです。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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