労働判例を読む#309

今日の労働判例
【日本代行事件】(大地判R2.12.11労判1243.51)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、運転代行業務を業務委託契約に基づいて行っていた原告Xらが、当該業務は労働契約に該当する(Xらが労働者に該当する)と主張して、被告会社Yに対し、未払いの割増賃金の支払いなどを求めました。
 裁判所は、労働者性を否定し、Xらの請求を否定しました。

1.労働者性
 裁判所は、「種々の観点から検討していく」と示し、いくつかの事情を指摘して労働者性を否定しました。そこで指摘された事情を簡単に整理しましょう(番号とタイトルは著者)。
❶ 指揮命令
 ・ 出社日をXらが自由に決定できる。出社が命じられたことはない。
 ・ 特にXらドライバーは、他の者と異なり、タイムカードの打刻が必要とされていない。
❷ 時間的場所的拘束
 ・ 番号札や使用自動車を受け取りに出社するが、待機場所など、勤務場所も拘束されていない。
 ・ 顧客に会いに行く道順や待機場所を自由に決められる。
❸ 諾否の自由
 ・ 勤務時間も自由に決定できる。
❹ 労務対償性
 ・ 報酬は売上げによって決まるため、労務対償性が低い。
 ・ 公租公課・社会保険料などを支払っておらず、労務対償性が低い。
❺ 専従性
 ・ 深夜の時間帯であること等から、副業者が多いと思われ、専従性が低い。
 その他にも、Xらが、上記に反する事実などを指摘していますが、それぞれについて労働者性を与えるものではないことを検討しています。こちらも、どのような事実がどのように評価されるのか参考になるので、簡単に整理しましょう(番号は裁判所、タイトルは筆者)。
① シフト制(面接によってYが勤務時間を決めていた)
 ・ 本件では、Xらが自由に決定しており、これと異なる日の出社を命じられることはなかった。
② 遅刻・欠勤への罰金(労働時間の拘束)
 ・ 自由に出社できる裏返しとして違約罰を課すことはあり得る事態である。
③ 待機場所の指示(労働場所の拘束)
 ・ 本件では、指定なし。繁華街・歓楽街に近くなるのは、業務の性質上自然。
④ 配車の打診を拒めない(諾否の自由)
 ・ 配車の打診を拒むことは、収入の減少につながるだけで、諾否の自由がなかったとは言えない。
⑤ ドアの開閉確認練習、社訓の音読、身だしなみチェック(指揮命令)
 ・ 顧客サービスレベル維持・充足のためのもの。
⑥ 代替者が限定されていた(専従性)
 ・ 運転免許や自動車保険の制約がある。
⑦ 求人情報に保障給の記載があった(労務対償性)
 ・ 完全出来高制、等も明記されている(保障給は目安、という意味ではないか)。
⑧ HPにタイムカードに関する記載があった(労働時間の拘束)
 ・ HPの記載が実情と異なるが、そのことだけで「契約の性質の考慮要素とすることはできない」。

2.実務上のポイント
 このうち、特に注目されるのは、労務対償性と専従性です。
 労務対償性は、サービス提供の対価、という広い意味ではなく(もしそうであれば、業務委託も請負も全てこれが満たされてしまい、労働者性の判定に全く役立たなくなるから)、労働時間によって計算されることや、社会保険料・公租公課を会社が負担するなど、労働契約固有の特性を持った給与計算であることが、その内容とされています。但し、このような内容は、契約によって形式的に定められてしまうものであり、実態に応じた保護を契約者に与えるべきかどうかを判断する場面で、適切な判断枠組みとなるかどうか、疑問も示されているところです。
 専従性は、副業の推進も検討されている状況で、今後も判断枠組みとして適切かどうか、議論されるべきポイントとなるでしょう。というのも、労働者として複数の会社に勤務する「副業」が進めば、専業でなくても労働者性は否定されなくなるからです。むしろ、この事案で示された専従性は、Xらに独立した事業者としての実態が伴っているかどうか、を判断するための判断枠組みと位置づけなおした方が理解しやすいかもしれません。労働者か独立した事業者か、という評価は、例えば上記②④⑤などからうかがえるように、二者択一の問題ではなく、労働者性と事業者性のどちらが強いか、という程度の問題、バランスの問題と見るべきであり、そうすると、複数の事業に関わっていると事業者性を強める要素になる(もちろん、労働者による副業も増えていくだろうが)、と位置付けることが可能だからです。
 このように、本判決は従前議論されてきた「労働者性」の判断枠組みを尊重して分析検討していますが、その中でも特に重要な判断枠組みは上記❶~❸であることが理解できます。これは、検討の内容を見ても理解できるでしょう。
 最近の裁判例では、総花的に全ての判断枠組みに触れるのではなく、特に重要な要素だけを判断枠組みとするものも出始めており、事案に応じた判断枠組みを裁判所が柔軟に設定する、という最近の傾向が「労働者性」でも見え始めた、と評価できるのではないかと思います。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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