松下幸之助と『経営の技法』#4

 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。

1.2/19の金言
 会社も国も”病気”におかされたら、すぐに治療をするべきである。

2.2/19の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 会社や国が病気になっても、病気にかかっていることを知られたくない、という気持ちが働き、薬を飲めば一日で治る病気が五日も十日も治らないことになりかねない。体面を気にせず、躊躇することなく、すぐに治療することが大切である。なすべき時には何でもなさねばならない。

3.内部統制(下の正三角形)の問題
 社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 会社を人体に例えることは、経営学でも良く使われる思考方法・表現方法です。この観点から見た場合、まず、自分自身で病気に気付かなければなりません。これは、「リスクセンサー機能」と言うべき機能です。このリスクセンサー機能が直接論じられているわけではありませんが、病気に気付かなければ話が始まりませんので、リスクセンサー機能が有効に機能することが前提になっているはずです。
 そのためには、経営だけが怯えているのではだめです。体中に神経が張り巡らされているからこそ、様々な異常に気付きますので、会社も、各現場の全ての従業員が、違和感を覚えたらすぐに報告する感性と行動力を持たなければなりません。
 次に、リスクを減らしてリスクを取るか、リスクを避ける、という判断と行動が必要になります。
 現実化してしまえば、もはやリスクではなく、その意味で、松下幸之助氏の言う「病気」は、現実化してしまったトラブルのことかもしれませんが、死を招く危険な状態という意味であれば、まだ「リスク」の状態とも評価できます。
 しかし、問題はそこではなく、気付いたリスクに対する判断と行動です。これは、「リスクコントロール機能」と言うべき機能です。そして、氏の発言は、まさにこのリスクコントロール能力そのものを表しています。
 特に、風評のリスク(体面)と、会社の体力低下(収益力低下など)のリスクの両方を同時に避けられない状況で、どちらかを選択しなければならないところ、その判断が遅れることのリスクを示している、と評価すべきでしょう。
 この点は、「リスクコントロール」という言葉が与えかねない一般的なイメージの持つ危険性を指摘しており、非常に重要です。
 というのも、「リスクコントロール」と言われて、多くの場合、「慎重な検討」が必要、と連想してしまいます。時間をかけて、対立するリスクを見極め、そのうえで判断することが、確かに多くの場合、適切でしょう。
 けれども、それが全てではない、むしろ、リスクを早急に見切り、素早い決断と行動こそ重要な場合があることを、指摘しているのです。
 このように、リスクを見極め、素早く決断し、行動に移すための工夫は、様々考えられます。マニュアル化や標準化がわかりやすい例ですが、他社の経営状況にも興味を持ち、どのような症状が出れば会社が病気になったのかを見極められるようにしておくことや、他社がそこからいかに回復したのか、という事例を常に把握しておくことも、重要な対策です。

4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 さらに、ガバナンス上のコントロールとして、株主によるコントロールも期待されるべきです。
 病気になったことを非難するのではなく、病気を隠したり、薬を飲まなかったりする点こそ、非難されるべきであり、株主や、これに代わって経営をチェックすべき機関が、責任追及という後ろ向きの問題だけでなく、今後の対策という前向きの問題も考慮に入れることが、必要となるはずです。
 松下幸之助氏の発言には、この点の指摘がありませんが、掘り下げれば当然、この点が重要な問題になります。

5.おわりに
 このように見れば、会社内部の体制やプロセス、さらに社風まで含め、経営者が日ごろからどのような会社組織を作るのか、が重要な問題になります。
 恥を恐れず薬を飲む、という経営者の判断の問題だけに言及していますが、組織がその判断どおりに迅速に動かなければ、飲むべき薬を飲まなかった、という結論に差が無くなってしまうからです。すなわち、氏の言葉をより掘り下げて考えれば、経営者による組織作り(特に、内部統制/下の正三角形)こそ、重要となるはずです。


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