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松下幸之助と『経営の技法』#173

8/6 使命の達成

~我々は世間から仕事を預かっている。その仕事の使命をなおざりにしてはならない。~

 部下を他の人に変えてでも使命の達成をはからなければならないというのが、部長の責任というものでしょう。そのためにはどうするかといえば、やはり社長なり会社の首脳者に、その実情を訴えなければなりません。「あの部下は他の部署に行けば、さらに適職を得て十二分にその実力を発揮できるようになるかもしれませんが、自分の部にいる限りは、適性を欠いていると思います。ですから、部のためにも会社のためにも、また本人のためにも、他の部署にかえていただきたいのです」という提言をしなければならないと思うのです。
 ところが、そのような場合、往々にして“そんなことを言うのは、自分が部下を使いこなせないのを示すようで、部長としての体面にかかわる”とかいった人情が働き、そこまで踏み切れないということがあります。しかし、そうした人情にとらわれて、言うべきことを言わないということでは、部長としての使命感が薄い。言い換えれば、世間から預かっている大きな仕事の使命というものをなおざりにしている、ということになってしまいます。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が逆ですが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 「世間から預かっている大きな仕事の使命」の意味です。
 これは、2つの観点から検討しましょう。
 1つ目は、経営者のミッションです。
 経営者は、株主から「儲ける」ことをミッションに、資金や経営の機会を託されます。しかも、どんな方法でもいいわけではありません。近時の品質偽装の問題(食品、素材、部品など)で、多くの会社が社会的に非難され、その中には経営危機に瀕してしまった会社もあります。すなわち、会社は社会に受け入れられなければ、長く事業を営むことができないのです。
 したがって、経営者のミッションは「適切に」「儲ける」ことです。社会に評価され、受け入れてもらえるように「適切に」事業が行われる必要があります。これは、コンプライアンス、企業の社会的責任、CSR、ノブリスオブリージュ、などで示されるところです。
 そして、経営者のミッションは、会社のミッションであり、会社のすべての業務についてのミッションとなりますから、管理職者は、「適切に」業務を遂行しなければならないのです。
 2つ目は、稼ぐごとそれ自体の、社会的な意義です。
 松下幸之助氏は、6/9の#115や6/10の#116など、折に触れて会社の社会的な責任を強調します。これは、市場を活性化させ、従業員に雇用を与えるなど、会社の事業活動それ自体に社会的に意義があるだけでなく、製品を通して社会を良い方向に導く点にも、社会的な意義があると話しています(6/28の#134)。
 このように、管理職者の業務も、社会に対して意義のあるもののはずなのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 松下幸之助氏が描く管理職者は、非常に善人です。合わない部下を抱え込み、何とか教育しようとしているようです。
 けれども、違うタイプの管理職者もいます。
 具体的には、自分が扱いにくい従業員に対し、実際にはそこまで成果も能力も無いのに、非常に高い評価を与え、他部門にその従業員を押しつけてしまう管理職者です。こちらは、抱え込まない点で、氏の問題にする管理職者と逆の対応をしていますが、従業員の人事考課に対し、本当のことを言わない点では共通します。
 このような管理職者の対応は、人事上のリスクを増大させるものです。
 すなわち、従業員への処遇(配置転換かもしれないし、解雇かもしれない)が争われた場合、会社が当該従業員の適性について、つまりその職場にマッチしていなかったことについて、証明することができなくなり、会社の行った処遇が違法である、などと評価される危険が高まるのです。
 さらに、経営上の問題として、チーム全体や、当該従業員の生産性が下がったり、適切な人材配置をしない経営や会社に対するロイヤリティーが下がったりする危険もあります。
 この原因を、管理職者の気持ちの弱さにあると松下幸之助氏は見ています。つまり、気持ちの弱さと、これに対比されるは業務に対する使命感です。すなわち、気持ちの弱さを、義務感によって克服しろ、という説明です。
 けれども、もう一つの克服方法があります。
 それは、管理職者が経営者になれるように頑張る、といモチベーションによって克服する方法です。経営者は、時に冷酷でなければならず、それができるようになることが、自分自身のその後のキャリアのためにもなる、という発想なのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏は、管理職者に対して、部下の評価や処遇について厳しくあるべきである、ということを繰り返し話しています(例えば、6/13の#119)。これは、管理職者の能力が組織全体の能力を大きく左右するからです。すなわち、管理職者がリーダーとして任されたチームを盛り上げ、その生産性を高めることが、組織全体の能力を高めることになるからです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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