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松下幸之助と『経営の技法』#273

11/14 老いも若きも尊重しあう

~年齢によって異なる持ち味を生かしあえば、より力強い社会の働きが生み出されてくる。~

 例えば、50、60になって、なおかつ社長という責任ある地位にあり、その仕事を遂行して立派に成果をあげておられる方でも、これはその人1人だけの力で、そういう姿を生み出しているのではない。やはり、その人の部下というか、30歳、40歳の、周囲の人たちの協力があり、その上に自らの経験を働かせているからこそできているのだ、ということをよく知らなければなりません。
 また、30、40の人たちも、自分たちのもてる力がより生かされるのは、先輩たちの豊かな経験に導かれているからだということをよく知る。加えて、やがては自分たちも年をとり、将来は自分たちもこの先輩たちと同様の立場に立つのだということを考えて、その経験を学んでいこうという姿勢を持つことが大切だと思います。
 それぞれが発揮する持ち味によって違いますが、老いも若きも、その年齢による違いを尊重しあい、それぞれを生かしあっていく。そういうところから、より力強い社会の働きというものも生み出されてくるのではないかと思うのです。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 年齢が切り口となっていますが、今の言葉で言うと「多様性」の活用、という点がメインのポイントになります。
 これは、松下幸之助氏が早い段階から採用してきた経営モデルにつながる考え方です。
 一方で、例えばワンマン会社やベンチャー企業など、経営者の力量が会社の全てであるような場合には、従業員に求められる資質は、経営者の指示を忠実に遂行する能力です。そこでは、経営者のキャパを超えられない、という限界はありますが、組織の一体性や突破力が高くなる、というメリットがあります。このような経営モデルでは、従業員の「多様性」は重要な要素ではなく、むしろ、組織の一体性や突破力を弱めるような場合には、「多様性」は消極的・否定的に評価されてしまいます。
 他方で、松下幸之助氏は、比較的早い段階から従業員に権限を委譲してきました。言わば、プチ経営者として育てることを重視しており、非常に個性を重視します。組織としての一体性や突破力は多少弱くなりますが、経営者のキャパを超えた大きさや質の仕事が可能になります。これがあったからこそ、松下電器は大企業に成長できたのです。
 この観点から見れば、「多様性」は、松下幸之助氏の確立した経営モデルにとって、当然のパーツであり、経営と切っても切れない関係にあります。指揮命令だけで人を動かす組織ではなく、若手の意見も積極的に取り入れていくことが推奨され、現場からの活気が原動力となる組織だからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として、会社内での「多様性」を重視しない経営者は、市場での競争で1つのハンディを背負っている、と評価できそうです。
 それは、社会が成熟し、消費者の嗜好が多様化したからです。
 つまり、市場競争の最終的な評価者である消費者の嗜好が多様化している以上、そのどこにターゲットを絞るかはともかく、多様なニーズをとらえることができなければ、市場での競争にとって不利です。もちろん、特定の狭い領域での競争に特化する方法もあるでしょうが、その競争領域が変ったり消えたりすることを察知できなければ、環境の変化に対応できません。
 ここで、会社内での「多様性」があれば、市場の変化や様々なニーズについて、多様な従業員の誰かが気付いてくれることになりますが、会社内での「多様性」が無ければ、そのような情報は会社の中から上がってこなくなります。会社自身の感度が悪くなるからです。
 つまり、投資家から見た場合、「多様性」を重視しない経営モデルや経営者は、市場の変化に対応できないリスクが比較的高い投資対象、ということになるのです。

3.おわりに
 ダーウィンの進化論も、「強い種」が生き残ったと解釈するのではなく、たまたまその環境に適していた「変わりものの種」が生き残ったと解釈すべきである、と言われます。
 松下幸之助氏が、最後に「社会」に言及していますが、変化に対応でき、長く生き残れる社会や会社は、多様性を備えている社会や会社である、ということです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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