第34話仕事の本質

(兄弟は歳取ると余計に似てくるというけど、ほんまソッリやなぁ)

TK工房は、商談の席で向かいに座る相手の顔を見ていた

そこは部内報の印刷業者選定のための見積り説明の場である。

昨日、印刷業3社にメールで条件を記載の上、見積もり連絡を入れたところ、すぐさま電話をかけてきたのが畑中印刷だった。

「毎度お世話になります〜。畑中印刷の畑中と申します〜。TK工房さんはいらっしゃいますでしょうか? あ、はじめまして畑中と言いますー。この度はお声掛け頂きましてありがとうございます。もし宜しければご挨拶も兼ねて、明日伺わせていただければと思うのですがご都合いかがですか?」

そんな調子で、本日面談が実現した。

この畑中印刷の畑中社長は、企画部部長の畑中の弟だという

弟であることは、同席している竹尾課長から聞いていたが、その場で話題に上がることはなかった

畑中社長「ほな、今日お持ちした概算見積もりとそんなに、変わらんと思いますけど、すぐに正式な見積もり出しますんで、よろしくお願いします」

畑中社長をエントランスまで見送り、事務所に戻るエレベーターの中で竹尾が口を開く

竹尾「他の会社は特に反応ないやろ?」

TK工房「はい。見積もり対応しますっていう返事来ただけです」

竹尾「まぁ、そやろな。」

TK工房「やる気ないんですかね?」

竹尾「まぁ、やる気ないっていうか。こんな仕事しれてるやん。うちの会社の社内報とかなら、発行部数も一桁違うやろし、もっと前のめりになるやろけど」

TK工房「なるほど。」

竹尾「ほんでまた、毎回畑中さんとこがダントツで安いんよね(笑)」

TK工房「え、そうなんですか?」

竹尾「うん、見積もり集まって来たら見てみたらええわ。で、次は肝心の部内報の中身やな〜。どうするか」

TK工房「僕考えたんですけど、今までの内容って、どうしても上から下に一方向にメッセージを出してるだけという感じがして、しかも言うこともだいたい同じでそれがマンネリ化してる気がするんです。なので、若手中堅側からも発信する場を設けて、双方向からの発信の場にしたいなぁと。色んな切り口で、今回は誰が何言ってるんやろ?って興味を持って読んでもらえるものにならないかなぁと」

竹尾「部内報って言うのは基本上から下にメッセージを出す場やけどなぁ。まぁ、本部長に聞いて見たら?」

TK工房「はい!」

席に戻ると、出張者用の机に陽川が座っているのに気付いた

TK工房「陽川さん!おはようございます!」

陽川「おう。おはよーさん。ちゃんと仕事してるか?」

TK工房「はい。ちょうど今、次の部内報の作成してまして、印刷業者と打ち合わせしてました」

陽川「部内報?て、あのクソみたいな紙か?」

相変わらず口が悪い

陽川「もう、あれ廃刊にしたら?誰も読んでへんやろ。金の無駄や。」

TK工房「え、、、いや、確かに内容が面白くないので、変えようという話を今してるんです。」

陽川「内容もクソやけど、何で白黒やねん?って話や。読み物として読む気になるか?読ませるという最低限の努力が見られへんやろ」

TK工房「確かに。過去も白黒だったみたいなので、そういうもんかと思ってました」

陽川「お前は何のために新人やねん?クソみたいな慣習に染まるだけか?普通に考えておかしいことにはおかしいと言える人間になれよ」

TK工房「はい、、、でも、逆に何が正しいのかって、全くわからないですし、初めて見た部内報がこれだったんで、僕が気づくのは難しくないですか?」

陽川「ほなお前は部内報について他の部署や、他社がどんなもん出してるのか調べたんか?そもそもお前は普段読み物として、白黒の冊子を見てんの?」

TK工房「え、、、いや、調べてないですし。私生活ではこういう白黒のものは見てないです。」

陽川「お前なぁ、仕事は本質的に理解せぇよ。言われたことやるだけならバイトでええねん。内容のおもんなさに気付いて変えようと思ったことは褒めたるわ。ただお前自身に経験がなくて、感覚がわからんねやったらまず調べろ。それもせんと、わかりませんとか言うてんちゃうぞ」

TK「はい。すみません。」

陽川「とりあえず、俺はこのままなら廃刊を提案した方がええと思うよ。創刊当時の当時の大義名分ももはやないし、惰性で続いてるだけやから。」

続く

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