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税務訴訟あれこれ 認められない理由 「正当な理由」とは


こんにちは

セカンドオピニオン税理士の宮崎貴美子です。

確定申告がはじまりました。

自民党の裏金問題に対する不満からか「確定申告ボイコット」のハッシュタグの記事がニュースになったりして、税に対する不公平感を強く感じている人の多さを実感しました。

政治家がきちんと納税しないなら、私もしない、という短絡的な考えは「赤信号みんなで渡ると怖くない」という心理に似ています。

結局は、申告をしなかった事実に対してペナルティが課せられ、「身から出た錆」自業自得だと泣くことになります。

法律は知らない人の味方ではありません。
どんなに不公平だ、不平等だと口にしても、こんな事情があったと主張しても、それが、「正当な理由」に該当しなければ、ペナルティが免除されることはありません。

今日はこの「正当な理由」についてお話しします。

国税通則法第66条では、申告をすることができなかった「正当な理由」があれば、無加算税(申告をしなかったことに対するペナルティ)を課さないとされています。

期限内に申告ができなかった色々な事情が「正当な理由」だと主張し争われることになるんですが、裁判事例を見る限りに認められたものはありません。

まずは、無申告加算税の立法趣旨と法令解釈を引用することで、「正当な理由」が認められるものが少ないことがわかってもらえるかと思います。

【無申告加算税を課す理由】
国税通則法66条が定める無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告納税の実現を確保することを目的として、適正に法定申告期限までに申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、申告義務違反の発生を防止するための行政上の措置である。

【正当な理由の解釈】
国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、例えば、災害、交通・通信の途絶等、法定申告期限内に申告書が提出されなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

つまり、法を順守しなければペナルティがあることで期限内に申告することを促し、期限内に申告をした人との差別化が公平に繋がる、と理解できます。そうすると次のような納税者の主張が裁判で認められなかったことも納得します。

・     交通事故に遭い、寝たきりの状態となったために申告期限までに所得税の確定申告書を提出できなかった主張に対して、納税者は療養中も事務所との電話連絡等により事業を継続していることなどによれば、納税者が本件申告期限当時、他人をしてでも確定申告書を提出することができない状態であったとは認められない(大阪地裁平成18年5月25日判決【税務訴訟資料 第256号-144(順号10404)】)。

・     障害等級2級の精神障害者で、混雑した圧迫感のある場所へ行くと、頭が痛く発狂しそうになるため期限内申告ができなかった主張に対し、確定申告期限の直後に3回、納税者自らが税務署を訪れ税務申告を行っていることからすると、原告の障害の程度を考慮しても期限内申告書を提出できない重篤な状態にあったとは認められない(千葉地裁平成30年2月13日判決【税務訴訟資料 第268号-18(順号13123)】)。

・     税法の不知により譲渡所得について所得税の申告義務があることを知らなかったというものにすぎないところ、税法の不知や誤解によって所得税の期限内申告ができなかったという事情は、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情とはいえない。(東京地裁平成24年7月20日判決【税務訴訟資料 第262号-157(順号12007)】)

・     「所得税の確定申告書の手引き」に確定申告書の提出が遅れた場合に無申告加算税が賦課されることについて記載がなく、同加算税は納税者に周知徹底されていなかったとの納税者の主張に対し、「手引き」には、確定申告書の提出期限が記載されており、そのことは広く国民に周知されていたこと、郵便や信書便による送付又は税務署の時間外収受箱へ投函する方法によって申告書を提出することも可能であったことに加えて、納税者が申告書の提出期限を徒過した場合には行政上の制裁を課せられることを予測することは十分可能である(広島地裁平成19年10月25日判決【税務訴訟資料 第257号-192(順号10801)】)
 

などなど、主張は様々ですが、納税者の事務多忙、病気、出張、法律の不知等の類は「正当な理由」に該当しないと判断されています。

つまり、立法趣旨や法令解釈から、個人個人の色々な事情に対して法律の救済はないということがわかります。

では、どんな場合が該当するかというと、豪雨災害や地震の被害にあった場合です。
今回の能登半島地震に被害にあわれた方に対しては、国税庁のHPにも申告・納付等の期限が延長されていることが掲載されています。

国が、政務申告や納付をするのに支障がない程度に復旧した日を「災害がやんだ日」と定め、発表するまでは、期限が延長され、法律に決められている期限までに申告・納付等をしなくても、ペナルティは課されません。

申告をしないでいい話ではありませんが、災害時の対応については、災害減免法により、所得税が軽減または免税される場合もありますので、まずは日常を取り戻すことを優先させていただきたいと思います。

石川県・富山県以外に納税地を有する方であっても、災害により被災され、申告・納付等をすることができない場合には、税務署に対して申請することにより、申告等の期限の延長を受けることができますので、状況が落ち着き次第、税務署へ相談してみてください。

私は、熊本地震を経験した1人として、復興に向け沢山の税金が使われたことを知っています。そして、台湾の半導体製造企業の進出に伴い、国からの支援を受け、大きく変わっていっている姿を目にし、お金が持つ力を強く感じます。

そして、税金が公共サービスの資金調達という一面を担っていることを理解する一方で、「租税は、国民の富の一部を強制的に国家の手に移す手段だ」と書かれた文章に共感しました。

「租税は、国民の富の一部を強制的に国家の手に移す手段だ」という言葉から、「税金をとられる」といった感情や「なんで政治家は・・・」「なんで金持ちは・・・」という不公平や不平等な感情が生まれるのは、当たり前の感情だと認めるものの、だからといって法律を自分に都合よく解釈していいわけではない、ということを伝えたくなったんです。

国税や国税不服審判所で学んだ知識や経験から、国税がどう判断するのかを知っていれば、何がよくて何が悪いのかを判断することができ、選択肢を広げることができます。

その結果、経営者の価値観から生まれた誤った思い込みや、税務職員から「認められない」と言われる理由を知ることで、数字が整い、調査に対する不安は少なくなります。

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