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超次元的実戦川柳講座 その6「平安京エイリアンとたたかう5・7・5職人のメソッド」

(毎度おなじみ巻頭註。以下の文章は2022年4月2日、伊那市芸術文化講座「現代川柳を学ぼう」での講義内容をもとに作成したものです。一部、というかかなり補足を行っております)

(そして例によって。本記事は一部有料です。単体でもご購入できますが、定額マガジン「別冊・非情城市」のほうがお得です。これからも川柳講座をアップしてゆきますので。宣伝はこのへんで)

 こんにちはー。川柳講座もあと少しで一区切りですね。(*註 伊那市の講座は全8回の予定)。そろそろまとめに入ろうかということで、今回はすこし変則的にします。
 なんか「やってみないとつまらない」ってあるじゃないですか。今日はまず、実際に川柳を作ってみましょう。そのあとで、続きの講義します。で作句の際は、これまで学んだことを活かして。具体的には、それぞれ好きな言葉を選んで、そこに肉づけてゆく方法を実践してみますか。肉づけというか、穴埋めのアナロジーがふさわしいかな? 平安京エイリアン。いやわかる人のほうが少ないと思うんですが、それはともかく。
 ぱっと思いついた言葉で、
 私が「えんぴつけずり」。
 Tさんが「信号機」。
 Cさんが「鯨」。
 いいですね。カオスの予感(笑)。あ、noteで読んでいただいている皆さんも、よかったら紙と鉛筆用意、いや最近はスマホで用足りるのか、用意して、自分なりの句を作ってみてくださいね。
 
 そんなわけで、理論の方は、後半に短めで。短くなるといいのですが(笑)。
 
 で、実作の仕方なんですが、これは私が21年川柳やって来て、いちばん形にしやすかったメソッドです。ちなみにこのメソッド、暮田真名さんが同じような方式を提唱されていて、びっくりというより、何か腑に落ちるものがありました。暮田さんの講座をお聞きになったかたは「同じようなこと言ってるよ」とお思いかもしれませんが、これは私のオリジナルです。オリジナルって何?って問題が横たわっていますが、まあ、並行進化とかなんとか、そういう言葉で納得してください。もちろん暮田さんは暮田さんのオリジナルです。
 さて、各自がそれぞれ「自分のえらんだ言葉」を鍵に、実際に川柳をつくってゆきましょう。
 まず私は……ええと、「えんぴつけずり」。何でこれなのかがまずわからない。いやこれ大事なところで、何でこのキーワードなのか、って問題は、実はずっと付き纏うんですよ。川柳やってるかぎり。ていうのは言い過ぎかもしれず、あと10年やってれば迷いなくわかるのかもしれないんですが。
 ただ、今私が「えんぴつけずり」って言ったのは、たまたま脳がそのように活動しただけです。これは人が人であるかぎり、誰でも「言語」というものは——いろんな位相において——噴出するわけです。そこに理論づけとかって、あまり意味は、というよりほぼ意義はないです。
 むしろ考えなきゃいけないのは、「えんぴつけずり」って言葉が出たあと、その言葉にどう反応するかですね。
 まず、こう置いてみます。
 
  えんぴつけずり
  
 7音であることがおわかりと思います。じゃあ、中七に置くのか、と思いますが、それだと何か据わりが良すぎて、ずんどうになりすぎる気がして、句またがりにすることにしました。ちょっと動きが出ますしね。便宜上、句の間をあけて表記します。(言い忘れていましたが、よっぽど技法として使わない限り、575の間はあけて書きません。新聞とかに表記されるときにあけられて悲しくなるの、短詩型あるあるですね。笑。いや笑じゃないんだけど)
 
  ***** ***えんぴつ けずり**
 
 *のところはこれから埋めてゆく音字です。これで道筋が見えて来ました。
「けずり」の下の2音をどう埋めるかですね。とりあえず、2音の言葉を探しましょう。「嗅ぐ」「降る」「足す」、まあ出て来ますが、ここは素直に、消しましょうか。あるものを消すのは結構素直な手ですよ。「消す」にします。
 
  ***** ***えんぴつ けずり消す
 
 じゃあ、ここで「えんぴつけずりが消えている」状態から、適当な距離で離れているものは何か。
 
  太陽* ***えんぴつ けずり消す
 
「太陽」をえらんだわけです。このあたりは、「二つの言葉を離す」というトレーニングを思い出してください。こうやってみると微妙にうまくないんですが、そういう日もあります。とにかく作るのが川柳の早道です(笑)。
 次に「太陽」をどうしたいのか。「太陽*」の*には何を入れたらいいのか。まあ、助詞ですよね。「が」「を」「は」「の」「と」「へ」「に」……。まあ色々とあると思うんですが。ここでは「を」を選びます。
 
  太陽を ***えんぴつ けずり消す
 
 ここで「を」にしたのは、作中主体の問題です。「太陽が」や「太陽の」だと、「太陽」がそれこそ主体になってしまうのですね。この句では、「えんぴつけずり消す」という行動をメインにしたかった、つまりえんぴつけずり消している人(仮にひととしておきます)を作中主体にしたいわけです。
 そうなると、「太陽」は何か目的や目標、手段であったほうがいい。この場合、目的としての「を」を選びました。
 あとは残りの3音です。じゃあこれ、どうしたら「太陽」と「えんぴつけずり消す」をつなげることができるだろう? こういうときのこういう場面においては、まず素直に考えたらいいですよ。あくまでこういう場面においては、で、ほとんどの場合拗らせたほうがなんとなくいい感じになります。ほんとか(笑)。
 で、素直に考えて「太陽」と「えんぴつけずり」の最小公倍数、あるいは最大公約数を導けばいいのです。ここでは最大公約数をえらびます。ふたつの言葉が内包していて、しかも共通するもの。
 とりあえず、えんぴつけずりは地球上にあって、太陽のまわりをまわっているから、まわりましょう。
 
  太陽を まわるえんぴつ けずり消す
 
   ↓
(完成)
  太陽をまわるえんぴつけずり消す 
 
 これで一句です。
 順番にすると、

 ①えんぴつけずり
 ②消す
 ③太陽
 ④を
 ⑤まわる
 
 の順に埋めていきました。この句が良いか悪いかと言えば、まあ普通です。そして、すべての句がこのように発生するかと言うと、そうとは言えません。なんだけれど、ひとつの作り方として挙げました。
 さっきも言ったけど、暮田真名さんの川柳講座でも、同じようなシステムで句を作られていて、ああ、自分もこれやってるなあと思いました。まあ微妙に違いはするんですが。たぶん、こうやって方法論で作ってく川柳作家、意外に多いんじゃないかと思います。あ、暮田さんの講座は要チェックですよ。
 で、「句が良いか悪いか」って言ったら、それは作った直後の自分には判断できません。いやなかには「間違いなくホームラン」って手応えを書く前から感じる時もあるんですが、稀です。いまつくったような普通の感じの句が良いか悪いかは、とりあえず寝かしましょう。一晩経ってまた見たら、なんか違う手応えがあるんじゃないかと、私は思っています。
 ここで重要なのが、「一晩経ってある程度距離を置いた句」を「どう読むか」っていう「読み」の力なんですね。「読む力」が「書く力」に直結しているというのは、この意味がひとつあります。
 で、まあ、私が私の句をしばらく置いて見ると……凡句です(笑)。まあ、そういうこんな日もある、ってさっきも言いましたが。
 
 じゃあTさん。
「信号機」でしたね。ちょっと置いてみましょうか。
 
  信号機
  
 これ、どこに置きたいですか? はい、中七。じゃあとりあえず、次のような見取り図を作ります。
 
  ***** 信号機** *****
 
 この「信号機」がどうなっているか考えたいのですが、二音で。(「赤」にしたい、と発言)。
 了解です。こんな風になりますね。
 
  ***** 信号機赤 *****

 では「信号機赤」からいちばん遠そうな言葉を考えましょう。(「入学式」との声)。
 了解です。これ上5と下5のどちらに置くかですが、下5だと、漢字がつづいて寸詰りになる印象があるので、頭をでっかちにしましょう。上5に入れます。しかもこれ、6音ですよね。6音のときは上に入れたほうがおすすめです。割と上の方が重くて固い方が、下が重くて固いよりは句の機動力があがりますよ。
 
  入学式 信号機赤 *****
 
 それでこの下5に何を入れるかなんですが…(「何入れたらいいんでしょう」とTさん)。そうですね、少し変則的な手を使いますか。
 この川柳というのは、575型なわけです。だったら、みずからを含む「川柳」という形式を入れてもいいのではないかと。
 
  入学式 信号機赤 5・7・5

「5・7・5」は「ごーしちご」と読みます。で、ここまで来たんだけれど、何かが足りない。もしかしたらこんな手があるかもしれません。
 
  入学式 信号機赤 6・7・5
 
 上5が6音だから、6・7・5にするわけです。こうすると、「句それ自身」を自己表出している感じがつよくなるし、深読みすれば「入学式」から小学校の「6」年を想起させることもできるわけです。中学高校と何年やってるんだ、という話ですが。ただまあ、進級に赤信号ということで。
 
  入学式信号機赤6・7・5
 
 漢字と数字、記号のみで成立した、なかなか尖った句になったと思います。ご自分で一晩寝かせて、また見直してみてください。私が余計なことを言ったかもしれません(笑)。
 ではCさん。「鯨」でしたね。
 Cさんは慣れているので、だいたいの感覚は掴めると思うけれど、とりあえずどこに置きます?(「いちばん最後」との声)。
 
  ***** ******* **くじら
 
 なんかいいですね、もう。じゃあ、「鯨」から遠い言葉を考えます?(「臨月の」との声)。なるほど。じゃあここは素直に上5に入れちゃいましょう。
 
  臨月の ******* **くじら
 
 ここで中7を迷うわけですが、それが決まらなかったら、まず「**くじら」の**に来る2音を考えてみましょうか。2音。いいっぱいありますね。この場合。「くじらが何かをする行為」を入れたほうがいいと思うのですが……。(「去る」との声)。
 
  臨月の ******* 去るくじら
 
 だいぶ固まって来ましたね。じゃあ「臨月の」何かであり、「くじらがそこから去ってゆく」何か、つまり中7を考えましょうか。
(「卒業式を」との声)。
 
  臨月の 卒業式を 去るくじら
 
   ↓
  
  臨月の卒業式を去るくじら
 
 かなり鋭い句になりました。まあ同じような方式で、別バージョンも作れますね。
 
  臨月の星のかたちで立つくじら
 
 まあこのほかにも応用は効くと思うんですが。とりあえず、自分で一晩置いてから見てみてください。意外な発見があると思います。 Tさん、Cさんともに、私が少し筋道をつけましたが、これはご自分の句です。いや責任逃れしてるわけじゃなくて。ただ、こういう方法論があると、格段に作りやすいでしょう? 方法論は何かを束縛する檻ではあるのかもしれないけれど、檻はまた「自由」を知るための「方法」でもありますから。ですから、この「方法」を知るためにも、「技法」を知っておくのも良い手なんだと思います。それでは、今日の講義にいきますね。
 あ、句は空いた時間につくってみてくださいね。自分なりに「この方法はもっとこうしたほうがいいんじゃないか」と思われたら、そっちを優先してみてください。はっきり言って、正解はないです。私も今言ったような方法論だけで作ってるわけじゃないんで。とにかく、作ってみることが早足です。今日はなんか同じことを言ってますが。
 では、講義行きます。 
 
 さて、前回川柳の技法として、次のようなものを挙げました。
 
 ①二物衝撃(二物衝迫)
 ②暗喩
 ③「ない」
 ④「〜は〜」(問答体)
 ⑤「る」で終わる是非

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