カスパール・ハウザーに永訣の朝

碁会所というソヴィエトのあるところ

玄米のきもちを書いていた標語

声紋の大阪湾がありあまる

蕨市をのどに押しこむスパルタ市

春分の太陽がないパロディウス

臼歯折りみぞれ間もなく雪になる

君が代を変奏しない釘師たち

猿町に羊歯植物の意味あたえ

フロイトの漢和字典を焼く砂漠

漠然のハウルの城を撮りためる

感覚にみぞれが降っている奇祭

スポックの句歴にろばの耳を足す

劇としてめんま売り買う闇市場

キャンベルの超寝室に腐りゆく

浴槽にタイムマシンとうかぶもの

つゆだくの荷風が折れて立っている

仏舎利をぬすんでハニーマスタード

負の神が学園前の駅に着く

ハバネロの模型にされたビューティ・ペア

湧き水のとなりの自我をくみたてる

池をみる森鷗外の塑像たち

死火山がとび箱ひとつとりかこむ

艦長の詩的言語に時をとめ

前世紀おわる胃袋池袋

鳥人が井戸を出てゆく社会詠

べとべとのスプリンターを尾行けつづけ

Ｘの喜劇に死んでゆく死蝶

狂宴がいつひらかれるアトム村

えんぴつを削りつづける天皇家

春分の右脳左脳にいる坂田

避妊具が外れ地球のみえる星

思惟のふと螺旋なすなり村田らむ

かみそりのないわが家からねずみ講

白軍のひとりひとりに脳の蠅

生前の言葉と物にやすりがけ

始原人あつまっているぬんちゃく屋

自己模倣タロとジロとに星ひかり

耳くそをあつめる村の顕彰碑

鍋に貼る右翼演説しておりぬ

三月のシャープペンシル二つ消え

ラジオ消し植物園に志賀直哉

膨大に地下の世界の歯みがき粉

マリリンの一味をはずれ粉ふき芋

連想に提婆達多のルアー塗る

無意識があってこの世にしゃぼん玉

コーヒーを魯迅のために煮る世界

グレゴール・ザムザのついた世界餅

埴輪屋が季語をなくしているあいだ

性欲にモスバーガーの名を借りる

閉館がつたわっているシド・ヴィシャス

上皇がただ塗りつぶす愛知県

蜂の巣のわたくしと云う長野県

ガン・マンの募金とぎれる伊那市市歌

類推のアンネの星にみずとかげ

爬虫類館の茶人に或るピント

小隊の脳下垂体午後に描く

松島のあらゆるホットケーキの忌

憤怒して象の時間のままはかる

ライナスの毛布をもらい墓に着く

一生のいか焼くなかに聴くタンゴ

卵うみだされてくもりつつ彼岸

王様は裸で裸夫は皮膚をもち

寂聴に検問されて彼岸の火

寂聴がわら人形のわれのなか

鏡屋の破損機械の句を詠みぬ

塩田にふざけつづける小宇宙

異母ばかり介錯人をえらばせて

脳のなかさらば布袋屋みぞれ降る

金閣が駅伝走者へと憑いて

火をもとめ森田一義邸敲く

かみさまがずるずると逝く口唇期

虚無僧が亀うばわれるウルグアイ

素粒子をみそしるに入れなにもせず

眼鏡屋がいてはいけない無人星

瘋癲をホームページとのりかえる

ブラインドタッチの大庭葉蔵記

春分の画像文明での忌み名

乳の海うかぶモスラをみて帰る

妻泣いて団地にふたり春嵐

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