Ⅰ．非常生活の冒険　　七〇句

センス・オブ・ワンダーによるすだこ丼

豚足を声のかぎりに主語として

その視野も仁鶴の蝶がさえぎって

ミカエルが鶏皮をはぎはじめる日

旅にあるまろが鮎川哲也駅

佐賀県を誤認したままいんこ抱く

台地ゆれ阿佐田哲也の豆挽き機

鬼才らをベン・ジョンソンの部屋によぶ

真と偽と泥レスリングつづくなか

寺を焼く軍人くんの私小説

空海にいたるガラスの爬虫館

ガンプラを凶器につかう雨のなか

蕉門の声と現象とどくなり

桔梗屋のかきくけこしかわからない

佐川くんひとりきり読む大予言

珈琲の部屋に毛利氏みちあふれ

連句中珈琲にがき種子島

外は雨妻の卵子をおもいだし

或る殺意村松友視なげ売られ

テクストはまちがわないと鐘を煮る

点鐘の平山さんにひかりあて

納豆を棄てるネガティヴ・キャンペーン

アメリカの桜が枯れる予告篇

濡れそぼる伊賀忍法のウソ予告

クソゲーにきりたおされる宇宙の樹

卵子みてかえるさなかのずっと雨

小遊三に擬態する蝶しない蝶

白光の世界にブドウ糖とけて

苔まみれセパタクローの森抜けて

餅の木といまをつなげる負の遺産

鶏をふみにじる産経新聞社

新世紀絵本作家の犠打ばかり

おかもちにスポイト容れて永い春

源三がにんげんとあう野球拳

雨をみて雨とつぶやく寄生獣

でろでろの新人類の脳の地図

秀頼のゆくてにシャインマスカット

厭戦とドグラ・マグラの街をぬぐ

蘭鋳を痒いおとこへ持ってゆく

贖いのほうれん荘にゲルあふれ

小仏をわたしの死後にてらしだす

てりやきとアンパンマンを同語にし

構造と力によってたつピアノ

いっとうの虎いっかいの秘儀おわる

魔球打ち頭脳はだれのためにある

アリスター・クロウリーとの花筏

花散らし時間のはてに浅田飴

チャーリーが天皇演ずテレビデオ

ウガンダの大統領が腱をきる

水の星少女革命さなかなる

次々兄にさなぎ以外のもの憑いて

システムで云えば駱駝のはなあたり

感覚のくらいところに製鉄所

鍛冶屋からエントロピーをもらい雨

ひかり射せ架空戦記の港町

新緑にジャンボ鶴田をつなぐ星

地球儀をまわしわすれる虚無戦記

壁のなか新宿高の校歌よむ

みな死んでトトロの真の名をあかす

死都心へ架空の章魚をもってゆく

天どんに学徒動員する地層

地図のうえプロペラ神社瓦解する

ウノつづく文明堂の日の左官

愛鳥の歴史のなかに美味しんぼ

時ながれ静寂室にウノおわる

制帽をよくわからない穴に投げ

三畳紀マニアがついに花見せず

マゾヒズム列車がめざす地平線

豆腐屋の訓読みをする四月尽

たましいの安部公房の寄席はねて

Ⅱ．変身＝カフカ機械　　十三句

あたま山変身忍者変身し

いもうととははとちちとの人のつら

プリキュアの盲腸きえる春の朝

胃袋になる日なる日のアミノ酸

触角をかくす山田とカフカの死

グレゴール・ザムザの自慰にひろい床

脳蓋にウルトラマンを貼る磁石

死の家の変身しないごんぎつね

洗礼のあと裸なるムツゴロウ

ドストエフスキーの乳首ひとつふえ

武者小路実篤になるぬりぐすり

レスラーが烏賊覆面をかぶるとき

長介が溶ける変身ものがたり

Ⅲ．ターンエーのゆるし　　十三句

身が燃えるレム睡眠をゆるされて

衛星の軌道だれかがゆるすユダ

氷沼家にただゆるされた窓硝子

オーケンの時をゆるしている少女

許し・罰・三ツ矢サイダーへと至る

独房の具体をついに書きはじめ

はっきりと憎んだひとのレゴを組む

海容の海をながれてゆくかばね

たらちねにつづく憎悪の像を彫る

ごぼう削ぐわたしのなかにいるあなた

まだ名無きあなたの虻をうけいれる

蜂蜜に蜂・蜜まざるざんげ録

ジャイアンの人魚の都市にゆるされる

Ⅳ．ブレードランナー忌　　十二句

エリザベス・テイラーへ河馬走り来る

裂けてゆく中距離走者らの卵子

オカリナを障害走とただみとめ

古墳から古墳にかけて河馬走る

ほとばしる熱いパトスの章魚汁屋

鮫提げて珍走団の墓まいり

白人の走者一掃する歌舞伎

目薬が尽きてブレードランナー忌

くらやみの走査線から志賀直哉

伴走のうしろの牛がいなくなる

ランナーズ・ハイの清張生きかわる

蟻走感シェークスピアの緯度あたり

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