ビッグイシュー(雑誌)の創設者講演

ボーディングスクールのみの習慣ではないと思いますが、イギリスの学校では、著名人や活躍する卒業生、地元の名士などを招いてちょっとした講演会をしてもらうことがけっこう頻繁に行われています。息子の学校ではこのパンデミック以来のオンラインシステムで保護者も視聴することが出来るようになってるので、私も時々ウェビナーの形で参加させていただいています。
今日の演者はビッグイシューの共同創設者、ジョン・バード男爵でした。大変面白かった!
(バード男爵は爵位を持ってらっしゃいますがロンドンのスラム街の生まれで波瀾万丈の人生を乗り越え今のお仕事をされています)


最近は日本でも認知されて来てるようですが「ビッグイシュー」というのは、ホームレスの方々を中心とした貧困者の自立を、自発的就労の角度から支援する雑誌販売のシステムでありムーブメントです。
システムでありムーブメントです、などと言わず単に「それは雑誌の名前です」と言って通じるようになれば一番良いと思いますが、日本ではまだまだ寄付の一形態としてのアピールから抜け出しきれないところも有るようで、なかなか難しい。私は日本の友人に説明する時には、やはりチャリティムーブメントとして紹介しています。

システムを簡単に説明しようと思いましたが、私の認識に間違いがあっても困るしイギリスの方は値上がりもしてるようなので、ここでは日本のビッグイシューの公式ウェブサイトを貼らせていただきます。ご興味のある方はどうぞ。(イギリスの販売管理の仕方と少し違うかも知れません)

本家イギリスの方では、もう少し本来の姿である貧困者への就労機会提供と精神的な自立支援の色合いが濃いようで、チャリティ大国とも言えるこの国で頭ひとつ抜き出る、素晴らしいアイディアとなっています。「ビッグイシュー」という誌名がまた素晴らしいですよね!貧困者が自らの脚で立ち上がることは、個人にとっても社会にとってもビッグイシュー(大事件/大ごと)です。

と、私はあくまでもイギリスでのことを書くので日本の団体と状況はまた違うのでしょうが・・なかなか通常の営利団体では起こりにくいような問題も抱えており、やはりチャリティでなければ立ち行かないシステムだということは言えます。
どうやら最初の段階で少額が手に入ると、もう続ける気の無くなってしまう人はけっこういらっしゃるようです(ビッグイシューはある程度同じ場所で販売されてるので続く方はしばらくお顔を見かけるし1日で居なくなる方もいます)し、たまにいらっしゃるのですが、やはり名の知れたビッグイシューの販売だと思えば買ってあげたい人の心につけ込んで、雑誌を示して購入を持ちかけ、お金を受け取った後に「これが最後の一冊なので渡せない」「今のお金は寄付ということにしてもらえますか」と言って雑誌を手渡さない人、古いものを売っていて同じ週のを二度買う羽目になったこと等、いろいろ有ります。
もしこれが普通の雑誌社であれば「二度と買わない!」ということになるかと思うからやはりちょっと普通の購入とは違うのですが、あくまでも「普通に雑誌を買っているだけ」と、販売者も購入者も主張できるところこそが、このチャリティムーブメントの肝。単に寄付をするだけならば/単に施しを受けるだけならば得られない、次のステップを目指すところに意義が有ります。

雑誌の内容としては、やはり少〜し活動家色の滲み出る記事が有りますが頑張って出さないようにしてる感じです。普通にクロスワードなんかも有ります。因みに、バード男爵自身は英国労働者革命党の党員でトロツキスト!!😲(日本は最近マルキシズムが再注目されてるようですが昭和の本など読むとむしろトロツキストという方も沢山いらっしゃったようですよ)

そうだバード男爵の話に戻って・・講演の内容的には英語版Wikiに書かれてるものとかなり被りますが、生い立ちからビッグイシュー出版までをコメディアン顔負けの身振り手振りとジョークを交えて、大変面白く話して下さいました。
現在はどちらかというと高級住宅街なのですが、映画にもなった「ノッティングヒル」という場所に当時有ったスラム街の出身だそうです。児童保護施設を経て、下働きのような仕事をしては盗みを繰り返し出たり入ったりしてたそうです。(でも今は男爵!)いろんな職を点々とした人生経験の中で印刷の仕事にも関わり、また自身もホームレスを体験したことで、職業経験をして(学び)実際に世の中と関わって行くということの大切さを知ったとのこと。労働の前の平等、労働の尊さということを熱く話されていました。
ほんと表現が楽し過ぎて、そしてちょっとラフ(乱暴/下品)で、良かった。今回音声接続があまり良くなくて、講堂の反響もそのままだし途中何回か途切れることもあったのですが、収録してる先生のクスクス笑いだけはばっちり拾ってました。
息子の学校は一応「パブリックスクール」ということである程度はいいとこから来てるお坊ちゃんお嬢さんが多いのですが、案外うちみたいな商売のご家庭のお子さんだったり、卒業後は農業専門学校へ進学してファームを継ぐという子が居たりします。学校説明会の校長先生のスピーチでも、大学へ進学せずそのままプログラマーとして就職した子や軍隊に入った子も居るとのこと。そういう子どもたちに向けて、バード男爵は、労働の前の平等、社会を構成することの素晴らしさを熱を込めて語って下さいました。
残念ながら音声が拾えておらず質問の内容がハッキリとは聞き取れなかったのですが、おそらく「もし政権政党が動いてくれなかったらどうしたら良いのか」「自分の支持する政党が政権を取れなかったら意味があるのか」ということについても答えてくれました。別の政党であることは対立することとは違う、とのこと。より良い社会を目指すという同じ目的の元にお互いを尊重しつつ、自分たちの考えを伝えて行くことが大切だとおっしゃっていました。
最後突然「歌っても良いですか?」と返事も待たずに歌い出して、それがひょっとして「インターナショナル」だったんじゃないかと思ってるのですが、私は日本語と中国語のインターナショナルしか聞いたことがなくて、今回急に英語バージョンだったので定かではないのですが・・でも、もしそうだったとしたらぶっ飛んでいる!さすがトロツキスト。この方を学校に呼んだ先生もぶっ飛んでいる!めちゃくちゃ楽しかったです。


今回も(というより今回は確信犯的に)ボーディングスクールや低年齢留学とは直接関係無いことを書きました。
でも言い訳すると、こうやってちょくちょく面白い人たちが話しにやって来てくれたり、学校のシアターを使ってけっこう本気の音楽会や演劇が行われたりして、大変にアカデミックなのです。
親からばかりのインプットだと考え方の指向が偏ってしまったりもすると思うのですが、そうなりにくい、いろんな人のものの見方に触れられたり見聞きして体験することが出来るところもまた、ボーディングスクールの良いところだと思います。
少なくとも、うちに居てインターナショナル聞く機会は無かったと思うし。😆