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シン・鬼十則 〜上司がなんでお前より偉いのかわかってんのか?〜

若い頃、昼下がり、デスクで仕事をしていたら先輩に言われた。
『仕事しろよお前。机に座ってて仕事ができるわけねぇだろ。 お前がやってるそれは仕事じゃねぇ、作業だ。勘違いすんなよ。』

先輩のキャンペーンの予算とスケジュールと見積作ってんだけどなぁ…なんて口が裂けても言えるわけもなく。
『…押忍!』

先輩曰く『作業は夜やんだよ。仕事相手が寝てからだ。仕事が出来る時は仕事しろ』と。

そしてお待ちかねの夜…
『おし!飲み行くぞ!』
思えば自分の飲み代を自分で払ったことなんて無かったあの頃、120%奢ってくれるその先輩に聞いた。

自分『なんでうちって給料いんすか?』

先輩『あ?お前そんなこともわかんねぇのか?』
先輩『まあそうだな、教えてやろう。うちは役無し平社員でもその辺の一部上場企業の部長なんぞより給料がいい(注・当時)。それはな、社員が罷り間違っても〝偉くなりたい〟とか〝出世したい〟とか血迷わないためだ。』

自分『偉くなりたいって思うのはダメなんすか?』

先輩『当たり前だ馬鹿。全然ダメだ。そういう邪な気持ちは仕事を履き違える。偉くなりたい奴は社内の上の顔色見ながら仕事をし始める。終わりの始まりだ。』

自分『そんなもんすか』

先輩『お前全然わかってねぇだろ。上司がなんでお前より偉いのかわかるか?』

自分『実績を上げたーとか、社に貢献したーとかすかね』

先輩『ちっがーう。この阿呆。学生気分もいい加減にしろ。出世はご褒美じゃねぇ。上司がお前より偉いのは、お前より優秀、つまり仕事ができるからだよ!』

自分『ぇえ、そんなん、当たり前じゃないすか!?』

先輩『当たり前だろ?これがな、当り前じゃない会社が世の中ごまんとあんだよ。上司のご機嫌をとって、上司の言うことは白も黒。評価に関係する周りの顔色伺って、社内政治に社内飲み会に明け暮れて偉くなる。』

自分『へぇ…。』

先輩『そんなことばっかり何年も何十年もやって来た奴がお前、俺より仕事が出来ると思うか?』

自分『いやぁ、むずいんじゃないスカ?』

先輩『そうだ。偉くなったら突然能力が上がったり、権能が発現したりするなんて言うのは漫画の中の話だ。だが実際問題そういう奴はどこにでも必ずいる。確率論だ。そして、何かの間違いでそういう偽物が偉くなった時、何が起きるかわかるか?』

自分『勿体つけないで教えてくださいよ』

先輩『お前生意気だな。まあいい。そういう奴はな、仕事が出来る奴を評価出来ないんだ。そもそも仕事のレベルが低過ぎて良し悪しが判断できない事が多い。中には自分より仕事が明らかに出来る奴を自分を脅かす者として排除する奴すらいる。』

自分『なるほど。さもありなんですね。』

先輩『更に悪いのが、じゃあそういうボンクラが偉くなった時、どんな奴を評価するかというと、〝自分を助けてくれる奴〟を評価して上に上げるようになる。仕事の出来る出来ないとは全く関係なくな。』

先輩『こうして負の連鎖、腐敗の相伝が連綿と生まれる。そういう奴らは敵だ味方だと群れて派閥を作りたがるから、組織がガタガタになってゆく。偉くなった瞬間、自分の事を守り助けてくれる奴だけで主要ポストを埋めたりする。御恩と奉公の封建主義の復活だ。適所適材とか仕事の能力・適正とか関係なくこれをやるから会社は本来の市場競争で大きく劣後し、気が付けばビジネスで大きく負けまくって最早追い付けなくなっていたりする。』

自分『地獄すね』

先輩『この世の中、試合に勝てれば勝負に負けても構わねぇみたいな糞ばかりの地獄みたいな会社ばっかりだぞ。そしてそんな会社ばかりになるから国が亡ぶ。お前、うちに入れて幸せだな。偉くならなくっても好きなだけ美味い酒が飲める。楽しい仕事にも事欠かない。ほれ、飲め飲め。』

先輩『まあ、あれだ。そんな鼻糞スパイラルが起きているとしたら全て経営者の責任だ。経営者からして目糞鼻糞なら救いようがない。仕事の何たるかを知らず偉くなりたい奴と、諦めた奴しかいない会社に未来はないぞ。』

自分『仕事ってなんなんすかね。』

先輩『あん?仕事ってのは世の中に価値を生み出すことだ。いい仕事をすれば、金も評価も出世もついてくる。これが当たり前の姿だ。まあ取り敢えず飲め。明日も朝から仕事しろよ。作業も社内調整も仕事じゃねえからな。』

自分『もう飲めないっす…げろげろげろ〜。』




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