見出し画像

ドクター・ストレンジに学ぶ「失敗」の哲学

「失敗」を避けるだけで、案外うまくいくもんだ。

※注意 本記事には「アベンジャーズ エンドゲーム」及び「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」のネタバレが含まれています。ネタバレを踏みたくない方は、スターク氏に連絡してください。彼が上映会に招待してくれます。(大嘘)

ネタバレかまへんよ、という方は、下までお進み下さい。

まずは、この記事からご覧ください。

THE RIVER
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ドクター・ストレンジ、どうやって1,400万通りの未来を見ていたのか ─ 涙ぐましい努力が判明

https://theriver.jp/iw-strange-14million/

「アベンジャーズエンドゲーム」「インフィニティ・ウォー」を未視聴の方もいると思いますので、ざっくりと両者ストーリーを説明します。それと、キーとなるキャラクター「ドクター・ストレンジ」についても解説します。

【アベンジャーズ インフィニティ・ウォー あらすじ】

サノスというムキムキマッチョマンの変態宇宙人が、とある計画を進めていた。その計画とは、「宇宙の生命体の半分を消し去り、生命のバランスをとる」というもの。
インフィニティ・ガントレットという手袋のようなものに、宇宙全体に散らばる6つの「インフィニティ・ストーン」を嵌め込み、指をパッチンする。そうすることで、指を鳴らした者の「願い」が実現するという。
地球人・宇宙人入り交じったヒーロー連合、「アベンジャーズ」は、一丸となってサノスの計画を阻止しようとする。だが、努力もむなしく、サノスに全てのインフィニティ・ストーンを奪われてしまう。サノスが指を鳴らすと、彼はどこかへ姿を消してしまった。恐ろしいことが現実となった。「全宇宙の生命体の半分」が塵と変わり、「アベンジャーズ」のメンバーも半数が消え去ってしまったのだった・・・。

あらすじ終わり

このラストシーンは、かなり物議をかもしました。というのも、アメコミヒーローの大衆映画では、「正義は勝つ!!」というエンディングが王道でしたから。(ウォッチメンという、そうした王道に対する「悪でも善でもない」グレーゾーンを描いた意欲作もあるにはあるが、例外的。)とくに、マーベルの映画は、子供から大人まで幅広い層に支持されています。その人たちにとっての「アンパンマンは必ずアンパンチでバイキンマンを倒す」という、お決まりのパターンが完膚なきまでに崩され、「バイキンマンがアンパンマンをボコボコにして終わる」という、最悪のバッドエンドを迎えます。

この作品内で、魔術師の「ドクター・ストレンジ」氏も「パッチン」によって塵にされてしまいます。

作中で、ドクターストレンジの放ったセリフと、その行動が、「失敗」にまつわる重要な要素になってきます。

中盤、ストレンジが、高速で1400万605パターン以上もの「未来」を見通すシーン。そのうち、アベンジャーズが勝利する未来は「1つ」のみ、だと彼は仲間に告げます。

残りの1400万604通りの未来は、全て「アベンジャーズがサノスに敗北する」というもの。

しかも、その「敗北ルート」を、ストレンジ自身が、この瞑想の間に全て体験している。

恐ろしい話です。

気の遠くなるくらい膨大な「失敗データ」=「アベンジャーズ敗北」を、「実際に」ストレンジ先生が経験しているわけです。しかも、ものの数秒の間に。ストレンジは魔法使いなので、時間を操ることができます。なので、「失敗ルート」に進み、自分が危なくなった。そのときに時間を巻き戻し、動画にあるような瞑想シーンまで戻ってきている。そしてまた別の失敗ルート→現在に戻る→別の失敗ルート・・・というのを、1400万605回、繰り返しているわけです。だから、残像が大量に現れている。「失敗」の中、やっと見つけたのが、「1」つの勝利への道筋。

「1400万605分の1」の可能性を言い残したまま、彼も「指パッチン」の犠牲者になり、消えてしまいます。そしてお話はエンドゲームへと繋がる。

【アベンジャーズ エンドゲーム あらすじ】

キレたアベンジャーズの残党に、あっけなくサノスはぶっころされました。ちゃんちゃん。

5年後

サノスが5年前にインフィニティ・ストーンを全て破壊してしまったため、消えた生命体を戻すことができなくなってしまった。生き残った者はそれぞれ、悲しみを抱えながら日々を過ごしていた。するとある日、タイムトラベル技術が発見される(この間の過程は省略します)。天才たちの頭脳のおかげで、タイムマシンが完成。アベンジャーズは、過去にタイムトラベルし、失われた石をそれぞれ回収しに向かう。
石が無事揃い、インフィニティ・ガントレットも天才トニー・スタークが作ってしまう。そして、「消えた人類の復活」を願い、再び指パッチン。
無事、消えた生命体の半数戻りました。めでたしめでたし

・・・といいたいところだったのだが、タイムトラベル技術を過去サノスに逆に利用されてしまい、過去からサノス軍団が押し寄せる事態に。

多勢に無勢。諦めかけたそのとき、ドクターストレンジが、5年前に消えた仲間とともに再登場。どんぱちやって、サノスをたおします。

その戦いのなか、ストレンジが、アベンジャーズの一員であるアイアンマンに示したハンドサインが

「1」

この状況、今いる状況が、「アベンジャーズが勝つ唯一の道」だというとです。それをストレンジ先生は、無言のうちに伝えています。

アベンジャーズ勝利=成功 を成し遂げることができたのも、ストレンジ先生の「失敗経験」があってこそ。彼は、あの瞑想の一瞬、彼にとっては気の長くなるほどの時間を、「1400万604通りの失敗」を知るために使ったのです。そして、それを現実のものにしないために、失敗をとことん避けてきた

いわば、彼は「失敗」を熟知し、その失敗を二度と起こさないことに全力を傾けている

ということになります。結果的に、それが勝利へと繋がったわけです。

すなわちストレンジは、劇中ではほんの数秒間しか描かれない未来予知の間に、1,400万605通りの臨死を味わい、ギリギリのところで踏みとどまっては失敗の理由を検討し、別のルートを探っていたのである。なんという地道な努力だろうか。

冒頭記事より

また、「失敗を避ける」という考え方は、いまめちゃくちゃ売れてるビジネス書、サンマーク出版 ロルフ・ドベリ氏の『Think Clearly』にも以下のように述べられています。

結論。よい人生は、究極の幸せを求めた結果として得られるものではない。馬鹿げたことや愚かな行為を避け、時代の風潮に流されなければ、人生はおのずとうまくいく。「何を手に入れたか」で人生の豊かさが決まるわけではない。「何を避けるか」が大事なのだ。(p.87)

史上最強ともうたわれるヒーローチーム。そんな彼らでさえ、強大な敵に立ち向かうときに用いたのが「地道で、泥臭い努力」。

もちろん、ストレンジ一人が勝利を導いたわけではありません。

生き残ったメンバーたちが、互いを叱咤激励しながら、諦めかけていた「命を取り戻す」という目標を達成したわけです。

ドクターストレンジは、「失敗の研究」を通して、彼らの「導き手」に回ったわけです。
実際、先生はエンドゲームの最終決戦ではほぼ「水をせきとめる」ことしてませんでした。
しかし、「失われた半数の生命体」に含まれる「ヒーローたち」、それに、色々な世界から集められた「サノスおめーだけは許さねー」軍団。その全てを取りまとめ、ワープホールを作り出し、最終決戦場に集めたのは、ストレンジ先生とその部下達。理論的に勝利への可能性を導き出すだけでなく、物理的にも、最終決戦のセッティングを行ってるわけです。恐るべし。ストレンジのマネージメント能力。カタカナが多い。なんだこのセンテンスは。トゥギャザーしようぜ。

【結論】

地味で、果てしのないように見える努力が、成功をもたらす。「失敗」は決して悪いものではない。むしろ、「どうしたら成功するか」を教えてくれる良いヒントである。ドクターストレンジも、「失敗をとことん洗い出す」という役割に徹し、「失われた仲間達を取り戻す」という、アベンジャーズ共通の目標を達成させた

といえます。

また

「失敗」が何かわかったら、
今後は全力で「その失敗」を避ければいい。

というメッセージが、ストレンジ先生の行動から読み取れます。

ストレンジ先生のみた「アベンジャーズ敗北ルート」がどんなものだったか、想像することしかできません。しかし、数えきれないほど多くのパターンがあったことはよくわかります。

アベンジャーズエンドゲームのコンセプトアート没案には、「キャプテン・アメリカの生首を掲げるサノス」などもありました。アベンジャーズ敗北ルートの一つとして、あり得る状況でしょう。

ストレンジ先生は、そうした「敗北パターン」を全て、その場所に居合わせて見聞きしているわけです。

勝つためには、敗北ルートはどうしても「避けたい」。「失敗を避け」さえすれば、負けることはない。

改めて、恐ろしいおっさん紳士です。先生。

追記 これデヴィッドボウイに似てない?

美川

Please support me