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de、愛永遠彼(であいとはかれ)4話

       美由紀と由紀雄

 新しい生活が始まって正直苦労する事ばかりだ。今まで住んでいた所ではお母さんが私の立ち寄るお店に声を掛けていてくれた、だから会話をする必要もストレスも無くスムーズに買い物が出来ていた。高校を中退しちゃったから······平日の昼間に街を歩いていると注目を浴びる、それはストレスだ。だからと言って夕方にすると人が多い。本当に毎日がストレスでしかない。学校に行っていた時は勉強してれば良かったから暇なんて事はそうそう無かった、でもこうも毎日やる事が無いと流石に外に出てしまう。
 そしてまた私に取って最大の悪夢が訪れてしまった。
「······あ·····の········こ·······これ」
『うわぁ···メッチャ可愛い、メアドゲット出来ないかな、ちょっと良い所見せてみれば』
「はい、これですね?これは取り扱う際にですけど·········」
『え!!嘘でしょ?···何で説明なんか始めるのよ、別に私は説明書があれば大丈夫だから会計を済ませてくれるだけでいいのに』
 だがレジの男は美由紀からメアドを得る為に執拗に説明を続け自身を猛烈にアピっている。他にお客が居ない事をいい事にいつまでも説明が終わらない、傍らから見れば美由紀は大人しく聞いている様に見えるだろうが、実の所本人はとうに限界を越えていたのだった。心臓は激しく鼓動し目眩もする、冷や汗は止まる事をせず吐き気までして来た。ならば買うのを止めて帰ればいいだろうと思うのが普通、だが限界を越えてしまった美由紀は足を外に向ける事すらも出来ない状態になっていたのだ。


 今日は午前中で講義も終わりバイトも休みだ、たまには自分から健一と明日香を誘おうとしたのだが、健一は彼女との先約があり断られてしまった。残念だが仕方ない、では明日香をと探すが見当たらない。そう言えばメールしたけど返事が·········来ていた。
「ふむ、風邪をひいて寝込んでいたとは、どおりで今日一日静かで快適に過ごせた訳だ······ん?新しいメール」
✱今私のメール見て今日は私が居ないから静かに生活出来たとか思ってるでしょ✱
「う!!何故分かる···鋭いな明日香、まぁ仕方ない見舞いに行って風邪を感染(うつ)されたらたまったものではない、ここはメールで······また?」
✱あ、それと来なくていいからね?感染しちゃってバイト休む事になっちゃったら困るし、でも私と一緒になってくれたら一生養ってあげるよ?✱
「え〜と······いつもの付き合ってよから結婚まで飛んでいる。うん、これはきっと風邪で熱があるからだろう。人間身体が弱るとろくでもない事を考えてしまうからな」
 俺はお大事にとだけメールを送り、溜め込んでいた異世界物のアニメを消化する為に家に帰る事にした。
 最寄りの駅で降りて家へ帰る途中、何気なくガラス越しに見た薬局の中に知っている人が居た。
『あの人は······そうだ、先日引っ越して来たえぇと···あ、確か美由紀ちゃんだったっけ。ふぅん、買い物は一人でも出来るん······ん?何か様子が可笑しいぞ?·······あ!!まさか』
 由紀雄は急いで店に向かい接触する前に状況を把握する事に専念した。どうやらレジに置いてある物を買いに来たみたいだが、店員の説明に困って···いや、あれはかなりヤバイ事になっている。
「お待たせ、ごめんね美由紀ちゃん。説明は俺が聞いておくから美由紀ちゃんは外で待ってる?それとも先に家に帰っててもいいよ?これは後で届けるから」
 突然の俺の乱入にパニックになってる。瞬きをする回数が···ってか瞬きし過ぎじゃないか?余程テンパってしまったのだろう、だが由紀雄の言葉は理解出来ていたみたいで、コクリと一度頭を下げると重い足を引き摺る様に店を出て行った。店員の男は······
『うわぁ···明らかに不機嫌だ、舌打ちまでしちゃって。んで?買おうとしてたのは······ん?電動歯ブラシ?』
 ふむ、電動歯ブラシに態々説明をする必要があるのか?など思っていたら中から店長らしき人がレジに来た。そこで俺は店長を呼び寄せ必要以上の接客に妹(嘘)がかなり迷惑していたと報告し、電動歯ブラシを購入して店を出た。
 人通りの少なくなった路地に入ると電柱の傍に美由紀ちゃんが立っていた。顔色を見るにどうやら少しは落ち着いたみたいだ、俺は歯ブラシの入った袋を美由紀ちゃんに手渡すと「それじゃぁ帰りますか」とだけ話し二人で家に帰る事にした。
『へ〜、対人恐怖症とは言っていたが共に歩く事は平気なのかな?』
 そんな風に考えている由紀雄だったが、それは由紀雄だからであった。どう言う事かと言うと、そうあれだ!!吊り橋効果みたいなものだ。恐怖の絶望の中、突然現れた救世主。美由紀は由紀雄に恋してしまったのだ······え?違う?フムフム、助けてくれた事は本当に感謝している。それに悪い人じゃ無い事も何となくだけど分かる。一緒に居ると不思議と気持ちが落ち着くけど、それが恋愛に繋がっている訳では決して無い。
 だそうです。

 二人は合流してから一度も会話をする事なく家に着き由紀雄の「じゃぁ」と言う一言で其々の家に入って行った。
 溜まっていたアニメを大分消化して来た頃チャイムが2度鳴った。俺は一時停止をして直ぐに玄関を開けるとそこには容姿端麗の美人···もとい、隣に住む由紀さんがいた。由紀さんの要件は昼間の出来事でお礼と電動歯ブラシの代金だった。俺は事情を知っていたからだと笑顔で答え、お金は別に受け取る気は無かったんだけど変な誤解を招いてはと思い素直に受け取った。由紀さんは何度も頭を下げて感謝して来たが、不思議な事だとも話して来た。
 良くよく考えればそうだよな?美由紀ちゃんは対人恐怖症であり異性恐怖症でもある。そのどちらもが『極度の』が付くにもかかわらず無言とは言え二人っきりで家まで帰って来たのだから。
 由紀さんは「出来るなら娘とこれからもより仲良くして貰いたい」と頭を下げて来たのだが返事を躊躇ってしまった。対人恐怖症と異性恐怖症と言うのはそう簡単には治らないものだろうし、本人の意見だってある筈だ。由紀さんは親心として言っているだけであって本人の意志は含まれていない。え?明日香がいるからって?いやいや違います、明日香はただの友達?親友って言った方がいいのかな?今の距離感で一緒に居ると気持ちが落ち着くんだよ。でも明日香と恋愛感情を持ってしまうとこの気持ちが崩れてしまう、だからそれは嫌なんだ。それに·········。

 正直一目惚れだ、初めて見た時に自分の気持ちを止める事が出来なかった。次があるのか?なんて考えていたら思わず身体が動いてしまい声を掛けてしまったんだ。

 こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ

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