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de,愛永遠彼(で、あいとはかれ)2話

       相田 美由紀

 まだ残暑が残る晴れた日に、美由紀は東京から少し離れた産婦人科で産声を上げた。父親は相田敏行、建築会社に勤務し毎日泥にまみれて仕事をしている。いわゆるガテン系であり肉体労働と言う事もあり、体格はガッチリしていて職人気質と言うのか気性は荒く、仕事の疲れを酒で癒やすほどの酒好きだった。
 母親は相田由紀、容姿は美しく性格はお淑やかで、敏行とは10も離れていて二十歳で結婚した時には周りからもっと良く考えた方がいいと言われたくらいだった。そんな二人の間で育った美由紀は物心が付いた頃から人と接触する事が苦手になっていた。
 昼間は母親の笑顔を見て心を温めているが、夜になると母親の泣き崩れる姿を毎晩見て来た所為である。原因は父親にあった、敏行は帰宅すると仕事でのストレスと酒に酔った勢いで毎晩由紀にDVを行い、それを見続けて来た事で人間不信に加え男性恐怖症となってしまったのだ。その結果美由紀は小学校に上がる頃には人と会話が出来ない程になっていた、学校側と担任はそんな美由紀を理解してくれるも同年代にはそうは行かない。コミュ力不足なんてものではない、人と全く会話が出来ないのだから当然イジメの対象となっていた。学校側は本人の問題もあるから対処がむずかしく、転校を促す事もあるが、由紀が美由紀に相談するも美由紀は頑なに首を振り学校は変えないと言い張り続けるのだった。
 中学に上がる少し前だった、美由紀はふと敏行に対する違和感に気付く。
『そう言えば、お母さんに対してはずっと暴力を振るって来てるけど、私って一度も叩かれた事が無い』
 子供に手を挙げないポリシーでもあったのか?それとも母親と父親の間にそう言う話になっているのか?他に何か理由が·········。
「若し私の所為で母親がDVを受けていたのら」 
 その事もあり母親に聞く事は出来ずにいるのだった。
 敏行は美由紀に対して一切手を挙げない、だがそれだけではなく顔を合わせても笑顔すら見せず、会話も無い。まるで美由紀の存在自体が無いかの様に。

 ある日授業が終わり帰り支度をしていると、担任が声を掛けて来た。
「相田、悪いがこの後お前の進路について話しがある、間もなくお母さんが来られるから一緒に来てくれ」
 一瞬間を開け固まってしまったが、コクんと小さく頷いて担任の後に続き指導室へと向かった。
 部屋に入ると由紀は既に来ていて、いつもと変わらない笑顔で美由紀を迎えてくれた。
『お母さん······いつもと変わらないって事は悪い話しじゃ無いのかな?』
 ガガガと音を立て由紀の隣に腰を下ろすと、担任は話しを始めた。
「お母さんには事前に話しをしていましたが、相田さんの進路について当人を含めまして話しをしたいと思います」
『私の進路······中学はどこにするかは一応考えてはいるんだけど』
「その事なのですが、美由紀は対人恐怖症だけではなく男性恐怖症と言う事もありまして、その一つでも解決出来ればと思い中学はA付属女子校に行かせようかと思っています」
「A付属女子校ですか······ですがご自宅から通うとなると」
『そう、家からはかなり遠いい、通うとなると電車通学になっちゃう、だから私は』
「そうですね?対人恐怖症である美由紀に取って電車通学は地獄の様な体験となるでしょう、ですがこの子は異性と関わりがあると酷く体調を崩してしまいます、幸いなのは女性専用車両がありますので、対人にさえ耐えられればと思っているのです」
『そこまで考えてくれてたんだ』
「成る程······近年は学歴が無ければ就職は困難となっていますので、義務教育だけでは正直キツイと思います。A付属女子校に入る事が出来れば頑張り次第では大学まではエスカレートですから、後は本人次第で私はいいと思います」
 皆こんな私の事を確りと考えてくれている、そんな思いに応える様に、見つめる由紀と担任に声は出せないが大きく頷いて返事をしたのだった。


 中学では小学校の時程イジメは起きなかった、年頃の女の子たからか?女子校と言う事が功を奏したのか?人と関わりを持たない美由紀に興味を示す者は殆ど居なかった。きっと美由紀に時間を割くよりも他に興味がある事に必死なのだろう、お陰で美由紀が神経を費やすのは通勤だけで良かった。
 小学校の頃からだが、学校行事には一切参加せず、中学でも由紀が学校側と話しをつけ、全ての行事は不参加しその時は学校を休む許可を貰っていた。そんな由紀の計らいで美由紀は無事学校生活を続ける事が出来たのだった。 高校に上がるまでは············。

 A付属女子校は成績が良ければ大学まではエスカレートで進める、人と関わりを持たない美由紀は勉学に専念出来、成績は悪く無かった、常に上位に位置していた美由紀は高校もすんなりと上がる事が出来、高校ともなると周りの人達は美由紀に一切興味を示さず、話し掛けて来る者も居なかった。
 今日は学校行事があり、当然のごとく美由紀は学校を休み自室で勉強をしていた。
「美由紀ちゃん?お母さんちょっとお買い物に行って来るけど、何か必要な物ある?」
 美由紀はドアを二度ノックして何も無いと由紀に返事を返すと暫くして玄関のドアが閉まる音が聞こえた。高校に上がる少し前から美由紀は由紀とも会話が無くなってしまい、由紀と最後に話し合った結果、一度のノックはYES、二度のノックはNOで返事をする、と言う事に決めたのだった。
 静かな家でいつも通り勉強をしていると、居間の方で何か物音が聞こえた。
『ん?お母さん返って来たのかな?』
 一瞬気にはなったが、直ぐにペンを持ちテキストに取り掛かる、だがその時乱暴に美由紀の部屋のドアが開けられ、入り口には酒に酔った敏行が仁王立ちしていた。
「何だお前居たのか、ちょうどいい」
 そう言うと物凄い音を立てドアを閉めると、強張っている美由紀に近付いて来て、徐ろに美由紀の腕を掴みベッドへと放り投げた。
『お酒臭い!!違う、お父さんが私に暴力!!今までそんな事無かったのに!!』
 頭が混乱している最中、美由紀は両の頬を力一杯殴られ軽く意識が飛んだ。そしてその後は敏行のされるがまま事が終わり、部屋を出て行く間際に敏行に警告されたのだった。
「いいか?この事は誰にも言うな、お前が今まで学校に行けているのは俺のお陰だ、この生活が出来ているのもだ、若し由紀に話してみろ?今まで以上に由紀が泣く事になる、分かったな?」
 敏行の言葉にただ黙って頷く事しか出来ない美由紀は、敏行が部屋を出て行った後血で滲んだシーツを顔に埋めて泣き続けた。


 敏行に何度目か暴力を受けた次の日、敏行が仕事で短期出張に出掛けて行った。美由紀は静かに部屋を出ると、キッチンで家事をしている由紀の背中にしがみつき、大きな声で泣きながら由紀に全てを打ち明けた。

「助けてお母さん······私············」

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